第22回物流施設の不動産市況に関するアンケート調査

  • 全て
  • 市況
  • アンケート
  • 予測
  • 特集
questionnaire

【不動産価格の見通し】

半年後の不動産価格の見通しは「横ばい」が71.0%と最多で、「上昇」が25.0%、「下落」が4.0%となった。本調査では「上昇」の回答構成比が減少する一方、「横ばい」がやや増えた。不動産価格では強気の見通しが後退しはじめている。

【賃料水準の見通し】

半年後の賃料の見通しは「横ばい」が75.0%と最多で、「上昇」が15.0%、「下落」が10.0%となった。「下落」の回答構成比は2017年1月の25.0%から3回連続で減少する一方、「上昇」は前調査に続き増加となった。そのため、賃料水準の業況判断DIは5.0ポイントで、前回のマイナス3.7ポイントからプラスに転じた。

1.物流施設の不動産価格の見通し

物流施設の不動産市況について、半年毎のアンケート調査を実施した。

物流施設の不動産価格について半年後の見通しを設問した(図表1参照)。本調査(18年7月)では「横ばい」が71.0%と最多で、「上昇」が25.0%、「下落」が4.0%となった。本調査では「上昇」の回答構成比が減少する一方、「横ばい」がやや増え、「下落」は少数に留まっている。不動産価格では強気の見通しがやや後退しはじめている。



図表1 物流施設の不動産価格の見通し(半年後)
図表1 物流施設の不動産価格の見通し(半年後)

出所:株式会社一五不動産情報サービス


半年後の物流施設の不動産価格の見通しについて、それぞれの理由を確認する(図表2参照)。

上昇理由では「物流施設への活発な投資が続くため」が22回答で最多となり、次いで「良好な資金調達環境が続くため」と「物流施設へ投資するプレイヤーが更に増えるため」が14回答となった。上昇理由の上位は前調査と同様で、良好な資金調達環境を背景に、物流施設へ投資するプレイヤーが増えることで活発な投資が続き、不動産価格の上昇余地があるという意見である。その他の回答では「建設コストが上昇するため」、「物流施設の賃料水準が上昇するため」、「日本経済の安定的な成長が期待できるため」がそれぞれ5回答である。

横ばいの理由では「不動産価格が上昇局面から踊り場に移行するため」が39回答、「不動産投資市場の過熱感から、投資を控えるプレイヤーが増えるため」が35回答、「賃料水準の見通しに大きな変化がないため」が27回答となった。不動産価格の上昇期間が長引き、高値警戒感から踊り場に移行するとの意見が増えている。また、「キャップレートの更なる低下が見込みづらいため」が18回答、「日本経済の見通しが安定しているため」が4回答となっている。

下落理由では「開発ラッシュによる需給悪化が見込まれるため」が4回答、「不動産価格の上昇局面が終わり、下落局面に突入するため」と「量的緩和政策の出口が意識され、金利が上昇する懸念があるため」がそれぞれ1回答であった。



図表2 上昇・横ばい・下落理由
図表2 上昇・横ばい・下落理由

出所:株式会社一五不動産情報サービス
注:複数回答可で設問。また、左軸上の文章は、読みやすくするため、一部省略している。文章(全文)は、PDF末尾の回答用紙を参照。


目次へ

2.物流施設の賃料水準の見通し

次に、物流施設の賃料水準について半年後の見通しを設問した(図表3参照)。

本調査(18年7月)では「横ばい」が75.0%と最多で、「上昇」が15.0%、「下落」が10.0%となった。「下落」の回答構成比は2017年1月の25.0%から3回連続で減少する一方、「上昇」の回答構成比は前調査に続き増加となった。アンケート回答者の4分の3が「横ばい」の見通しであるが、「上昇」の回答構成比が「下落」を上回った。



図表3 物流施設の賃料水準の見直し(半年後)
図表3 物流施設の賃料水準の見通し(半年後)

出所:株式会社一五不動産情報サービス


半年後の賃料水準の見通しについて、それぞれの理由を確認する(図表4参照)。

上昇理由では「ネット通販(メーカー・小売によるネット事業を含む)が、需要を牽引するため」が8回答、「土地価格や建築費などの開発コストが上昇し、その分の賃料転嫁が進むため」が7回答、「老朽化した保管型倉庫から、高機能な物流施設に需要がシフトするため」と「雇用面で優位性のある高機能型物流施設に対するニーズが高まるため」がそれぞれ5回答となった。ネット通販による堅調なニーズに加えて、労働力不足など事業環境の変化に対応しやすい高機能型物流施設がニーズの受け皿となり、市場関係者の楽観的な賃料水準の見通しに繋がっている。

横ばいの理由は「新規開発による供給増と物流ニーズの増加が均衡するため」が43回答、「荷主および物流会社の賃料負担力に変化がないため」が38回答となった。また「生鮮品など生活必需品の物流ニーズが底堅いため」が13回答、「物流業界に大きな変化がなく、安定しているため」が6回答となった。前回調査と同様に、新規開発が旺盛であるが需要は底堅く、需給環境は安定してため、賃料水準も大きな変化はないとの意見である。

下落理由としては「物流施設の大量供給で、テナントの獲得競争が激化するため」が10回答と最多で、「物流施設に対する需要が減退し、需給バランスが悪化するため」が5回答、「高機能な物流施設の大量供給で、大型物件の優位性が薄れるため」が4回答となっている。大量供給による需給緩和が進み、賃料水準が下落するという意見である。


図表4 上昇・横ばい・下落理由
図表4 上昇・横ばい下落理由

出所:株式会社一五不動産情報サービス
注:複数回答可で設問。また、左軸上の文章は、読みやすくするため、一部省略している。文章(全文)は、PDF末尾の回答用紙を参照。


目次へ

3.業況判断DI

不動産市況のサイクルを把握することを主眼として、不動産価格と賃料水準について業況判断DIを算出した(図表5参照)。

本調査(18年7月)における不動産価格の業況判断DIは21.0ポイントで、前回調査の25.9ポイントから4.9ポイント減少した。他方、賃料水準の業況判断DIは5.0ポイントで、前回のマイナス3.7ポイントからプラスに転じた。

不動産価格の業況判断DIは2016年1月の27.3ポイントから一進一退で推移する一方、賃料水準の業況判断DIは、2016年7月から2018年1月までマイナス圏で推移していたが、本調査でプラス圏に移行している。東京圏では新たな開発計画の発表が相次ぎ、2018年は過去最高の供給となる見通しで、2019年は2018年をさらに上回る供給が見込まれているが、市場関係者のマインドは悲観から楽観へと局面が移行しつつある。


図表5 本アンケートの業況判断DI
図表5 本アンケートの業況判断DI

出所:株式会社一五不動産情報サービス
作成方法:日銀短観の業況判断D.I.を参考に、下式にて算出。
業況判断D.I.=「上昇」の回答者構成比-「下落」の回答者構成比

目次へ

4.物流革新

技術革新によって業界の垣根を超えた多様な取り組みが進んでいる。周知の通り、少子高齢化の進行で人口減少が始まっており、典型的な労働集約型産業である物流業界では、深刻な人手不足に対処するため、積極的な投資に舵を切る企業が増えている。そこで、本調査では、活性化する物流革新のなかで、今後の成長が期待できる事業について設問した。


図表6 今後の成長が期待できる有望な事業

図表6 今後の成長が期待できる有望な事業

出所:株式会社一五不動産情報サービス

「データ共有・ビッグデータの活用による物流効率化」が53回答で最多となり、全回答者(100回答者)の過半数が選んでいる。適切な在庫水準や人員配置に活用するための物流効率化で、従前より取り組まれてきた物流改善の延長線上で捉えることもできるため、本調査で最も高い回答となった。
次いで「自動運転」が49回答となった。物流分野で人手不足が最も深刻なのは運転手である。現在、公道で先頭車両が有人、後続車両が無人で隊列を組んで走行する実験が行われている 。また、自動運転は法整備も課題のひとつで、官民一体で実用化に向けた取り組みが積極的に進められていることも高い関心に繋がった。
また「配送シェアリング」と「倉庫シェアリング」は45回答と35回答であった。シェアビジネスは技術革新による成長が著しい分野のひとつであるが、個人を対象としたC to CまたはB to Cでの事業が先行している。物流業界は(ラストワンマイル以外は)法人間の取引であるB to Bが主体であり、高いセキュリティや守秘義務が求められるケースが多いことから、どのような形でシェアビジネスが浸透していくか注目される。
「ロボットの導入」は18回答とやや少なかった。製造現場では以前からロボットが導入され、稼働実績が蓄積されているが、物流分野では歴史が浅い。日進月歩で機能が向上しているものの、物品によってロボット導入に向き不向きがあり、現状は試行錯誤の段階で、本格的な導入にはハードルがまだ少し高い物流現場が多いようだ。
「ドローンによる配送」は14回答で最小となった。ドローンによる実証実験は一部地域で開始されているが、都市圏の大半が航空法によって飛行が制限される人口集中地区であるために、現状では戸別配送は難しい。法整備の課題など、事業化への道のりが長いことが低い回答率に繋がったと考えられる。

物流革新の現場では課題が山積している。革新的な事業ひとつで課題が一気に解決することはなく、地道で多様な取り組みの継続が求められている。

目次へ

■アンケート調査の概要、回答用紙につきましては、PDF末尾をご参照ください。

レポートをPDFでダウンロード