第33回物流施設の不動産市況に関するアンケート調査

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【不動産価格の見通し】
半年後の不動産価格の見通しは「横ばい」が62.0%、「上昇」が26.0%、「下落」が12.0%となった。「下落」の回答者は少数派だが、その回答構成比は前回調査の6.5%から12.0%へ大幅に増加した。金融が正常化にむかう過程で、金利上昇への懸念が不動産価格の下落圧力に繋がるとの意見が増えている。

【賃料水準の見通し】
半年後の賃料水準の見通しは「横ばい」が53.0%、「上昇」が38.0%、「下落」が9.0%となった。「上昇」の回答構成比は、1年前の26.5%から2回連続で上昇し、コストプッシュ型のインフレが賃料水準の見通しにも影響するという意見が多い。

1. 物流施設の不動産価格の見通し

物流施設の不動産市況について、半年毎のアンケート調査を実施した。アンケート回答者の属性など調査の詳細はPDFを参照のこと。

物流施設の不動産価格について半年後の見通しを設問した(図表1参照)。本調査(24年1月)では「横ばい」が62.0%で最多で、「上昇」が26.0%、「下落」が12.0%となった。「下落」の回答構成比が前回調査の6.5%から12.0%へ増加する一方、「上昇」と「横ばい」の回答構成比がやや減少した。



図表1 物流施設の不動産価格の見通し(半年後)
図表1 物流施設の不動産価格の見通し(半年後)

出所:株式会社一五不動産情報サービス


半年後の物流施設の不動産価格の見通しについて、それぞれの理由を確認する(図表2参照)。

上昇理由では「物流施設の建築費が上昇するため」が19回答で最多で、「物流施設への注目が続き、今後も活発な投資が続くため」が10回答で続いており、開発コストが増加する環境下でも物流施設への投資が継続され、不動産価格が押し上げられるという意見である。また「円安の定着で、海外投資家の投資マネーがさらに流入するため」が7回答、「低金利の資金調達環境が続くため」と「物流施設の賃料水準が上昇するため」がそれぞれ6回答、「物流自動化を推進する高機能型物流施設への投資が続くため」が4回答となった。

横ばいの理由では「賃料水準の見通しに大きな変化がないため」が34回答で最多で、「キャップレートの見通しに大きな変化がないため」が28回答となっている。また「金利上昇への懸念で、投資家が新たな投資に慎重になるため」が26回答で、前回調査の14回答から大幅に増えており、金利上昇への懸念が不動産価格の保守的な見通しに繋がっている。そのほか「不動産価格が上昇局面から踊り場に移行するため」が22回答、「高値掴みへの警戒感から、投資を控えるプレイヤーが増えるため」が18回答となった。

下落の理由では、「今後も大量供給が続き、需給緩和が見込まれるため」が7回答で最多であった。また、「金利が上昇するため」が5回答で前回調査の2回答から増え、「量的緩和策の出口が意識され、資産インフレが終わるため」も4回答で、前回調査の1回答から増えている。「下落」の回答者は少数派であるものの、金融が正常化に向かう過程で、金利上昇への懸念が不動産価格の下落圧力に繋がるとの意見が増えている。



図表2 上昇・横ばい・下落理由
図表2 上昇・横ばい・下落理由

出所:株式会社一五不動産情報サービス
注:複数回答可で設問。また、左軸上の文章は、読みやすくするため、一部省略している。文章(全文)は、PDF末尾の回答用紙を参照。


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2. 物流施設の賃料水準の見通し

次に、物流施設の賃料水準について半年後の見通しを設問した(図表3参照)。

本調査(24年1月)では「横ばい」が53.0%で最多で、「上昇」が38.0%、「下落」が9.0%となった。「上昇」の回答構成比は、前々回(23年1月)の26.5%から2回連続で上昇し、本調査では38.0%まで増えた一方、「下落」の回答構成比は9.0%で、2022年7月の9.3%から目立った変化はみられない。物流施設の賃料水準については「横ばい」が主流ではあるものの、今後の「上昇」を期待する意見が強くなっている。



図表3 物流施設の賃料水準の見直し(半年後)
図表3 物流施設の賃料水準の見通し(半年後)

出所:株式会社一五不動産情報サービス


半年後の賃料水準の見通しについて、それぞれの理由を確認する(図表4参照)。

上昇理由では「建築費などの開発コストが上昇し、その分の賃料転嫁が進むため」が32回答で最多で、「物価高が物流施設の賃料にも波及するため」が24回答で続いている。コストプッシュ型のインフレが物流施設の賃料水準に影響するという意見が、上昇理由の上位二つを占めている。また「冷凍・冷蔵倉庫や危険物倉庫など、多様なニーズが新たな需要を創出するため」が13回答、「Eコマースの堅調な需要が続くため」が11回答、「飲食料品・日用雑貨・医薬品など、幅広い業種で堅調な需要が期待できるため」が8回答となっており、コストプッシュ型に続いて、堅調な需要(ディマンドプル型)を理由とする回答も多くみられる。

横ばいの理由では「建築費上昇に伴う賃料上昇圧力と需給緩和による賃料下落圧力が均衡するため」が35回答と、全ての回答選択肢のなかで最多であった。建築費の上昇を筆頭に、賃料上昇圧力はあるものの、倉庫の需給緩和も進んでいるため、結果として賃料は横ばいとなる意見が最有力である。また「この数年で加速した賃料上昇に、上げ止まりの兆しがみられるため」が19回答、「新規開発による供給増と物流ニーズの拡大が均衡するため」が15回答で続いている。そのほか「インフレによるテナントの収益性の低下と賃料上昇圧力が均衡するため」が9回答、「目立った需要の牽引役がなく、落ち着いた賃貸市況となるため」が6回答となった。

下落の理由では「物流施設の大量供給で、テナントの獲得競争が激化するため」が8回答で、大量供給に起因する需給悪化を懸念する意見が最も多い。また、「2024年問題への対応で輸送コストが嵩み、賃料の値下げ圧力が強まるため」と「物価高による消費の落ち込みで荷動きが停滞し、倉庫需要の減退に繋がるため」がそれぞれ3回答となり、前回調査と概ね同傾向である。


図表4 上昇・横ばい・下落理由
図表4 上昇・横ばい下落理由

出所:株式会社一五不動産情報サービス
注:複数回答可で設問。また、左軸上の文章は、読みやすくするため、一部省略している。文章(全文)は、PDF末尾の回答用紙を参照。


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3. 業況判断DI

不動産市況のサイクルを把握することを主眼として、不動産価格と賃料水準について業況判断DIを算出した(図表5参照)。

本調査(24年1月)における不動産価格の業況判断DIは14.0ポイントで、前回調査の20.7ポイントから下落した。他方、賃料水準の業況判断DIは29.0ポイントで、前回調査の19.5ポイントから上昇した。

不動産価格の業況判断DIでは、金融の正常化に伴う金利上昇が想起され、先行きに悲観的な意見が強まっている。他方、賃料水準の業況判断DIは上昇基調ではあるものの、前述の通りコストプッシュ型の賃料上昇を予想する意見が強い。


図表5 本アンケートの業況判断DI
図表5 本アンケートの業況判断DI

出所:株式会社一五不動産情報サービス

作成方法:日銀短観の業況判断D.I.を参考に、下式にて算出。

業況判断D.I.=「上昇」の回答者構成比-「下落」の回答者構成比

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4. 持続的なインフレが物流不動産市場に与える影響

総務省統計局が発表する昨年の消費者物価指数(生鮮食品を除く総合指数)は前年比で3.1%も上昇し、日常生活でもインフレを実感する機会が増えている。また、物流業界では2024年問題の影響もあり、当面は物流コストの増加が続くとの意見が大勢を占めている。そこで、本アンケートでは持続的なインフレが物流不動産市場にどのような影響があるかを設問した。


図表6 持続的なインフレが物流不動産市場に与える影響
図表6 今後の需要の牽引役

出所:株式会社一五不動産情報サービス

注1:複数回答可で設問。また、選択肢のうち、ポジティブな回答は赤棒、ネガティブな回答は青棒、どちらともいえない回答は灰棒で表示した。

上図ではインフレによるポジティブな影響を青棒、ネガティブな影響を赤棒、どちらともいえないものを灰棒で示している。

「建築費の上昇で、物流施設の開発が抑制される」が81回答で、全回答者(100名)のうち8割強が選択している。倉庫・物流施設は土地価格が低廉な郊外に立地することが一般的で、オフィスビルなどの事業用不動産に比べると、開発コスト全体に占める建築費の割合が大きい。昨今の建築費の上昇が、物流施設の開発を抑制するとの意見が非常に強いことがうかがえる。

インフレによるポジティブな影響(赤棒)では「商品の単価上昇が倉庫保管料のアップに繋がり、賃料上昇に結びつく」が25回答、「賃金上昇が消費を活性化し、倉庫需要の拡大に繋がる」が15回答、「持続的な物価上昇に伴う好景気から、設備投資が活発になり、倉庫需要も拡大する」が6回答と、倉庫保管料や賃金の上昇が不動産マーケットの好材料となることが期待されている。

他方、インフレによるネガティブな影響では、「インフレに伴う金利上昇で、不動産価格の下落圧力が高まる」が25回答、「消費の抑制で荷動きが停滞し、倉庫需要が減退する」が14回答で続いている。最多の回答となった「建築費の上昇で、物流施設の開発が抑制される」を除けば、不動産マーケットへの影響でポジティブな回答とネガティブな回答はほぼ拮抗している。持続的なインフレはこの数十年間にみられなかった現象であり、各社の事業にプラス面とマイナス面がそれぞれ押し寄せることが予想され、マイナス面をうまく制御しつつ、プラス面を追い風として捉えていけるかが問われている。

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■アンケート調査の概要、回答用紙につきましては、PDF末尾をご参照ください。

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