第32回物流施設の不動産市況に関するアンケート調査

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【不動産価格の見通し】
半年後の不動産価格の見通しは「横ばい」が66.3%、「上昇」が27.2%、「下落」が6.5%となった。本調査では金利上昇への警戒感が和らぎ、キャップレートや賃料の見通しに大きな変化がないことから、「横ばい」が主流となっている。

【賃料水準の見通し】
半年後の賃料の見通しは「横ばい」が60.9%、「上昇」が29.3%、「下落」が9.8%となった。「上昇」の回答構成比は、前回調査の26.5%から本調査では29.3%に増える一方、「横ばい」と「下落」の回答構成比は若干減少している。物流施設の賃料水準については「横ばい」が主流で、この1年間で大きな変化はみられない。

1. 物流施設の不動産価格の見通し

物流施設の不動産市況について、半年毎のアンケート調査を実施した。アンケート回答者の属性など調査の詳細はPDFを参照のこと。

物流施設の不動産価格について半年後の見通しを設問した(図表1参照)。本調査(23年7月)では「横ばい」が66.3%で最多で、「上昇」が27.2%、「下落」が6.5%となった。「下落」の回答構成比が前回調査の11.2%から6.5%へ減少する一方、「上昇」と「下落」の回答構成比が増加した。不動産価格の見通しでは前回調査から目立った変化はなく、「横ばい」が主流となっている。



図表1 物流施設の不動産価格の見通し(半年後)
図表1 物流施設の不動産価格の見通し(半年後)

出所:株式会社一五不動産情報サービス


半年後の物流施設の不動産価格の見通しについて、それぞれの理由を確認する(図表2参照)。

上昇理由では「物流施設の建築費が上昇するため」が21回答で最多で、「物流施設への注目が続き、今後も活発な投資が続くため」が15回答で続いている。また、「物流施設の賃料水準が上昇するため」が8回答、「円安の定着で、海外投資家の投資マネーがさらに流入するため」が6回答、「低金利の良好な資金調達環境が続くため」が5回答となっている。建築費の上昇で開発コストが増加する環境下でも物流施設への投資が継続されることで、不動産価格が押し上げられるという意見で、前回調査と同傾向である。

横ばいの理由では「キャップレートの更なる低下が見込みづらいため」と「賃料水準の見通しに大きな変化がないため」がそれぞれ29回答で最多で、「高値掴みの警戒感から投資を控えるプレイヤーが増えるため」が20回答、「不動産価格が上昇局面から踊り場に移行するため」が18回答で続いており、不動産売買市場に大きな変化がみられないことが横ばいの主な理由となっている。なお、「金利上昇への懸念で、投資家が新たな投資に慎重になるため」が前回調査の31回答から14回答へと半減以下となり、金利上昇への警戒感が薄れている。

下落の理由では、「不動産価格の上昇局面が終わり、下落局面に突入するため」と「2023年以降の大量供給で、需給緩和が見込まれるため」がそれぞれ5回答で最多となった。また、「金利が上昇するため」が前回調査の9回答から本調査では2回答へと大幅に減少している。

半年前の前回調査(アンケート実施期間:1月25日~1月31日)では、次の日銀総裁が未発表で金利上昇への警戒感が強かったが、本調査ではその警戒感が和らぎ、キャップレートや賃料の見通しに大きな変化がないことから、不動産価格の見通しでは「横ばい」が主流となっている。



図表2 上昇・横ばい・下落理由
図表2 上昇・横ばい・下落理由

出所:株式会社一五不動産情報サービス
注:複数回答可で設問。また、左軸上の文章は、読みやすくするため、一部省略している。文章(全文)は、PDF末尾の回答用紙を参照。


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2. 物流施設の賃料水準の見通し

次に、物流施設の賃料水準について半年後の見通しを設問した(図表3参照)。

本調査(23年7月)では「横ばい」が60.9%で最多で、「上昇」が29.3%、「下落」が9.8%となった。「上昇」の回答構成比は、前回調査の26.5%から本調査では29.3%に増える一方、「横ばい」と「下落」の回答構成比は若干減少している。世界的なインフレの影響で、国内でも物価上昇が続いているが、物流施設の賃料水準については「横ばい」が主流で、この1年間で大きな変化はみられない。



図表3 物流施設の賃料水準の見直し(半年後)
図表3 物流施設の賃料水準の見通し(半年後)

出所:株式会社一五不動産情報サービス


半年後の賃料水準の見通しについて、それぞれの理由を確認する(図表4参照)。

上昇理由では「建築費などの開発コストが上昇し、その分の賃料転嫁が進むため」が26回答で最多で、「飲食料品・日用雑貨・医薬品など、幅広い業種で堅調な需要が期待できるため」が12回答、「Eコマースの堅調な需要が続くため」が10回答となった。また、「冷蔵倉庫や危険物倉庫などのニーズに対応する施設開発が需要創出するため」が9回答で、前回調査の5回答から大幅に増えている。建築費などの開発コストの上昇に加えて、冷凍・冷蔵倉庫や危険物倉庫など特殊倉庫の開発が賃料の上昇に繋がっている。

横ばいの理由では「新規開発による供給増と物流ニーズの増加が均衡するため」が36回答で最多で、「この数年で加速した賃料上昇に、上げ止まりの兆しがみられるため」が24回答となり、前回調査と同傾向である。また、「目立った需要の牽引役がなく、落ち着いた賃貸市況となるため」が10回答、「インフレによるテナントの収益性の低下と賃料上昇圧力が均衡するため」が7回答となっている。

下落の理由では「物流施設の大量供給で、テナントの獲得競争が激化するため」が9回答で、大量供給に起因する需給悪化を懸念する意見が最も多い。また、「2024年問題への対応で輸送コストが嵩み、賃料の値下げ圧力が強まるため」が4回答、「この数年で加速した賃料上昇にテナントが追随できず賃料が下落に転じるため」が3回答、「高機能な物流施設の大量供給で、それらの物件の優位性が薄れるため」が2回答となっている。


図表4 上昇・横ばい・下落理由
図表4 上昇・横ばい下落理由

出所:株式会社一五不動産情報サービス
注:複数回答可で設問。また、左軸上の文章は、読みやすくするため、一部省略している。文章(全文)は、PDF末尾の回答用紙を参照。


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3. 業況判断DI

不動産市況のサイクルを把握することを主眼として、不動産価格と賃料水準について業況判断DIを算出した(図表5参照)。

本調査(23年7月)における不動産価格の業況判断DIは20.7ポイントで、前回調査の15.3ポイントから若干上昇した。また、賃料水準の業況判断DIも19.5ポイントで、前回調査の16.3ポイントからやや上昇した。

大型物流施設の開発ラッシュで、需給バランスの悪化を懸念する意見はあるものの、建築費などの開発コストが上昇し、コストプッシュ型のインフレの影響もあり、不動産価格、賃料水準とも安定的に推移するとの意見が強い。また、不動産価格については金利上昇への警戒感が和らいでいることも、業況判断DIの改善に繋がっている。


図表5 本アンケートの業況判断DI
図表5 本アンケートの業況判断DI

出所:株式会社一五不動産情報サービス

作成方法:日銀短観の業況判断D.I.を参考に、下式にて算出。

業況判断D.I.=「上昇」の回答者構成比-「下落」の回答者構成比

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4. 今後の需要の牽引役

この数年のコロナ禍では、巣ごもり消費の影響でEコマースが堅調であったが、ポストコロナに移行し、Eコマースの成長スピードは平常モードに回帰している。そこで、本アンケートでは今後の需要の牽引役として注目しているニーズについて設問した。

「食品(要冷)」が72回答で最多となり、全回答者(92回答)の8割近い回答者が選定している。高齢世帯や共働き世帯の増加によって、弁当や惣菜を購入する中食の利用が拡がっていることに加え、コンビニエンスストアでもデザートコーナーが拡充しており、低温ニーズに増加に繋がっている。特に、マイナス18℃以下で保管する冷凍食品の伸びが顕著で、以前は業務用が中心であったが、加工技術の発達もあって家庭向けの冷凍食品の魅力が増し、一人あたり消費量も拡大している。

次いで多かったのは「半導体/電子部品」で49回答となった。TSMCの進出をきっかけにシリコンアイランドとして復活しつつある熊本県、ラピダスが進出する北海道千歳市など、半導体に関連するニュースが相次いでいることが影響している。

またリチウムイオン電池などで注目されている「危険品」は30回答となり、回答者の三人に一人が選定している。アルコールを含む化粧品(原料)、医薬品(原料)、半導体の製造工程で必要な高圧ガスなども危険品に該当する。危険品そのものの物量が伸びているだけでなく、コンプライアンス意識の高まりによってグレーな倉庫運営を見直し、規則通りに危険物倉庫に調達するようになっていることも、ニーズ拡大に繋がっている面もある。

その他では「医薬品」が21回答、「日用雑貨」が19回答、「食品(常温)」が18回答となり、従来からの主たる荷物であっても、今後の需要のけん引役として注目されている。なお、「アパレル」は5回答と少なく、その他では引き続きEコマースに期待する声やインバウントに伴うニーズ拡大を期待する意見も複数みられた。

本アンケートで今後の需要の牽引役として上位となった「食品(要冷)」と「危険品」は、それぞれ冷凍・冷蔵倉庫と危険品倉庫という特殊倉庫に保管する必要がある物品で、「半導体/電子部品」も防塵環境が整った倉庫空間で、防塵包装や静電気対策など特殊な物流工程が必要となる。昨今の賃貸物流施設では、マルチテナント型物流施設に危険物倉庫が併設されたり、冷凍・冷蔵倉庫が開発されるケースが増えている。今後の賃貸物流施設の開発では、従来は特殊倉庫に保管されていたニーズを取り込み、普通倉庫と特殊倉庫を融合する動きが進んでいくことを示唆している。


図表6 今後の需要の牽引役
図表6 今後の需要の牽引役

出所:株式会社一五不動産情報サービス

注1:複数回答可で設問。

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■アンケート調査の概要、回答用紙につきましては、PDF末尾をご参照ください。

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