第31回物流施設の不動産市況に関するアンケート調査

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【不動産価格の見通し】
半年後の不動産価格の見通しは「横ばい」が62.3%、「上昇」が26.5%、「下落」が11.2%となった。不動産価格の見通しでは「上昇」の回答構成比が前回調査から大幅に減少し、金利上昇への懸念から先行きへの警戒感が高まっている。

【賃料水準の見通し】
半年後の賃料の見通しは「横ばい」が63.3%、「上昇」が26.5%、「下落」が10.2%となった。「上昇」の回答構成比は、2021年1月をピークに四回連続で減少する一方、「横ばい」が約3分の2を占めた。インフレが進む事業環境下で、物流施設の賃料水準は上昇マインドが弱まり、横ばいの見通しが主流となっている。

1. 物流施設の不動産価格の見通し

物流施設の不動産市況について、半年毎のアンケート調査を実施した。アンケート回答者の属性など調査の詳細はPDFを参照のこと。

物流施設の不動産価格について半年後の見通しを設問した(図表1参照)。本調査(23年1月)では「横ばい」が62.3%で最多で、「上昇」が26.5%、「下落」が11.2%となった。「上昇」の回答構成比が前回調査の58.8%から26.5%へ大幅に減少する一方、「横ばい」の回答構成比が前回調査の37.1%から62.3%に大幅に増加し、「下落」も前回調査の4.1%から11.2%へ倍増している。不動産価格の見通しでは強気の回答者が少数派となり、先行きへの警戒感が高まっていることがうかがえる。



図表1 物流施設の不動産価格の見通し(半年後)
図表1 物流施設の不動産価格の見通し(半年後)

出所:株式会社一五不動産情報サービス


半年後の物流施設の不動産価格の見通しについて、それぞれの理由を確認する(図表2参照)。

上昇理由では「物流施設の建築費が上昇するため」が21回答で最多で、「物流施設への注目が続き、今後も活発な投資が続くため」が16回答で続いている。建築費の上昇で開発コストがさらに上がり、物流施設への活発な投資が継続することで、不動産投資の出口となる価格を押し上げるという意見である。また、「円安の定着で、海外投資家の投資マネーがさらに流入するため」と「物流施設の賃料水準が上昇するため」がそれぞれ6回答、「インフレ対策で不動産投資が意識されるため」が4回答となっている。なお、「低金利の良好な資金調達環境が続くため」は前回調査の24回答から2回答へ急減しており、資金調達環境の変化が不動産価格の見通しに大きな影響を与えている。

横ばいの理由では「キャップレートの更なる低下が見込みづらいため」と「金利上昇への懸念で、投資家が新たな投資に慎重になるため」がそれぞれ31回答で最多で、特に「金利上昇への懸念で、投資家が新たな投資に慎重になるため」が前回調査の8回答から大幅に増えている。また、「賃料水準の見通しに大きな変化がないため」が22回答、「不動産価格が上昇局面から踊り場に移行するため」が20回答、「投資市場が過熱し高値掴みの警戒感から投資を控えるプレイヤーが増えるため」が19回答で続いている。

下落の理由では、「金利が上昇するため」が9回答で最多で、「不動産価格の上昇局面が終わり、下落局面に突入するため」が6回答、「2023年の大量供給で、需給緩和が見込まれるため」と「量的緩和策の出口が意識され、資産インフレが終わるため」がそれぞれ5回答となっている。

この半年間で金利上昇への懸念が急速に広がり、不動産価格の見通しで「上昇」の回答構成比が減少する一方、「横ばい」と「下落」が増加する大きな要因となっている。



図表2 上昇・横ばい・下落理由
図表2 上昇・横ばい・下落理由

出所:株式会社一五不動産情報サービス
注:複数回答可で設問。また、左軸上の文章は、読みやすくするため、一部省略している。文章(全文)は、PDF末尾の回答用紙を参照。


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2. 物流施設の賃料水準の見通し

次に、物流施設の賃料水準について半年後の見通しを設問した(図表3参照)。

本調査(23年1月)では「横ばい」が63.3%で最多で、「上昇」が26.5%、「下落」が10.2%となった。「上昇」の回答構成比は、2021年1月の57.5%をピークに四回連続で減少する一方、「横ばい」と「下落」の回答構成比が増えている。世界的なインフレの影響で、国内でも物価上昇が顕著になっているが、物流施設の賃料水準については上昇マインドが弱まり、横ばいの見通しが主流となっている。



図表3 物流施設の賃料水準の見直し(半年後)
図表3 物流施設の賃料水準の見通し(半年後)

出所:株式会社一五不動産情報サービス


半年後の賃料水準の見通しについて、それぞれの理由を確認する(図表4参照)。

上昇理由では「土地価格や建築費などの開発コストが上昇し、その分の賃料転嫁が進むため」が22回答で最多で、「飲食料品・日用雑貨・医薬品など、幅広い業種で堅調な需要が期待できるため」が11回答、「世界的なインフレが物流施設の賃料にも波及するため」が10回答、「Eコマースの堅調な需要が続くため」が9回答となった。従前の調査では堅調な需要が賃料上昇の主な要因だったが、本調査では開発コストの上昇が賃料上昇に大きな影響を与えていることがうかがえる。

横ばいの理由では「新規開発による供給増と物流ニーズの増加が均衡するため」が36回答で最多で、前回調査と同傾向である。また、「この数年で加速した賃料上昇に、上げ止まりの兆しがみられるため」が35回答で、前回調査の22回答から大幅増で、「業績低迷による収益性の低下とインフレによる賃料上昇圧力が均衡するため」も18回答となり、前回調査の12回答から増えている。コロナ禍のこの数年間、物流施設の賃料水準は上昇基調であったが、その局面は終わりつつあり、インフレによるテナント企業の収益性の低下もあり、賃料水準は横ばいになるとの意見が増えている。

下落の理由では「物流施設の大量供給で、テナントの獲得競争が激化するため」が7回答で最多で、大量供給による需給悪化が賃料の下落圧力になるとの意見である。また、「インフレの影響で荷主・物流会社の業績が低迷し賃料値下げ圧力が強まるため」が3回答、「この数年で加速した賃料上昇にテナントが追随できず賃料が下落に転じるため」、「コロナ禍が収束し、Eコマースからの需要が減退するため」、「混沌とした世界情勢で、日本経済の低迷が長引くため」がそれぞれ2回答となっている。


図表4 上昇・横ばい・下落理由
図表4 上昇・横ばい下落理由

出所:株式会社一五不動産情報サービス
注:複数回答可で設問。また、左軸上の文章は、読みやすくするため、一部省略している。文章(全文)は、PDF末尾の回答用紙を参照。


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3. 業況判断DI

不動産市況のサイクルを把握することを主眼として、不動産価格と賃料水準について業況判断DIを算出した(図表5参照)。

本調査(23年1月)における不動産価格の業況判断DIは15.3ポイントで、前回調査の54.7ポイントから大幅に下落した。また、賃料水準の業況判断DIは16.3ポイントで、前回調査の19.6ポイントからやや下落した。

不動産価格、賃料水準とも業況判断DIは下落しているが、不動産価格の方が下落幅は大きく、本調査で賃料水準を下回った。大規模物流施設の大量供給による需給緩和で、賃料水準は軟化するという意見が強まっているが、不動産価格では賃料下落による収益性の低下に加えて、金利上昇への懸念もあり、先行きに悲観的な意見が急速に広がっている。


図表5 本アンケートの業況判断DI
図表5 本アンケートの業況判断DI

出所:株式会社一五不動産情報サービス

作成方法:日銀短観の業況判断D.I.を参考に、下式にて算出。

業況判断D.I.=「上昇」の回答者構成比-「下落」の回答者構成比

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4. 自動運転が物流分野に与える影響

特定の条件下で完全自動運転となるレベル4の公道走行が2023年4月から解禁される見通しである。そこで、本アンケートでは自動運転が今後の物流分野へ与える影響に関して設問した。

「自動運転へのシフトは緩やかで、物流分野への影響は小さい」が65回答と最多で、全回答者(N=98)の3分の2が物流分野への影響は限定的との意見であった。次いで「自動運転を導入しやすい高速道路のインターチェンジに直結する大規模物流施設が増える」が38回答で、先行的な自動運転の導入が見込まれる高速道路のICに直結する物流施設に注目が集まっている。そのほか、「自動運転に併せて、積卸しなど倉庫内の自動化も進むため、物流施設が高機能化・巨大化する」が26回答で、人手不足をきっかけに輸送と倉庫の自動化が両輪で進むことも期待されている。加えて、「自動運転へ積極投資ができる大手物流会社(または荷主)による業務の寡占化が進む」が23回答とやや多い。自動運転を含む新技術の導入には、多額の資金と人材が必要となり、先行導入で実績を積み重ねた企業が市場シェアを一気に獲得しやすい面があり、今後の寡占化を予想する意見もみられた。なお、「自動運転の始まりで、運送業務に見切りをつける長距離ドライバーが増えてしまい、人手不足がさらに深刻になる」は5回答、「休憩が必要なドライバーが不在となるため、長距離輸送が増え、中継拠点のニーズが減少する」が4回答と少数にとどまった。

2024年問題に代表されるトラックドライバー不足の解消策のひとつとして、自動運転が注目されやすいが、3分の2の回答者は完全自動運転へのシフトは容易には進まないだろうと予想している。完全自動運転が実現するまでのつなぎの部分で、人手不足を解消する課題解決策が求められている。


図表6 自動運転が物流分野に与える影響
図表6 大量供給が物流不動産市場に与える影響

出所:株式会社一五不動産情報サービス

注1:複数回答可で設問。

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■アンケート調査の概要、回答用紙につきましては、PDF末尾をご参照ください。

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