第30回物流施設の不動産市況に関するアンケート調査

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【不動産価格の見通し】
半年後の不動産価格の見通しは「上昇」が58.8%、「横ばい」が37.1%、「下落」が4.1%となった。不動産価格の見通しでは「上昇」の見通しが6割近くで大勢を占めるが、「横ばい」と「下落」の回答者がじわりと増え、先行きへの警戒感が強まっている。

【賃料水準の見通し】
半年後の賃料の見通しは「横ばい」が61.8%、「上昇」が28.9%、「下落」が9.3%となった。「上昇」の回答構成比は、2021年1月をピークに三回連続で減少する一方、「下落」の回答構成比は前回(22年1月)から大幅に増え、賃料水準の見通しでは強気と弱気が交錯している。

1. 物流施設の不動産価格の見通し

物流施設の不動産市況について、半年毎のアンケート調査を実施した。アンケート回答者の属性など調査の詳細はPDFを参照のこと。

物流施設の不動産価格について半年後の見通しを設問した(図表1参照)。本調査(22年7月)では「上昇」が58.8%と最多で、「横ばい」が37.1%、「下落」が4.1%となった。不動産価格の見通しでは、「上昇」の見通しが6割近くで大勢を占めるが、「横ばい」と「下落」の回答者がじわりと増え、先行きへの警戒感が強まっている。



図表1 物流施設の不動産価格の見通し(半年後)
図表1 物流施設の不動産価格の見通し(半年後)

出所:株式会社一五不動産情報サービス


半年後の物流施設の不動産価格の見通しについて、それぞれの理由を確認する(図表2参照)。

上昇理由では「物流施設への注目が続き、今後も活発な投資が続くため」が37回答で最多で、「物流施設の建築費が上昇するため」と「円安の進行で、海外投資家の投資マネーがさらに流入するため」が31回答で次いでいる。ポストコロナでも物流施設は主たる投資セクターであり続け、建築費の上昇や円安による海外投資家からの投資が見込めることから、不動産価格がさらに上昇するとの意見である。また、「物流施設へ投資するプレイヤーがさらに増え、物件獲得競争が激化するため」は28回答で、前回調査の48回答から大幅に減少している。物流分野への新規参入は一段落し、不動産価格への影響が小さくなっている。そのほか、「低金利の良好な資金調達環境が続くため」が24回答、「物流施設の賃料水準が上昇するため」が11回答となっている。

横ばいの理由では「キャップレートの更なる低下が見込みづらいため」が20回答、「賃料水準の見通しに大きな変化がないため」が17回答で、上位二つの横ばい理由は前回調査から不変である。また、「不動産価格が上昇局面から踊り場に移行するため」が14回答で、前回調査の7回答から倍増しており、市況サイクルの観点から、不動産価格の上昇局面が終わりつつあるとの意見が増えている。そのほか、「投資市場が過熱し高値掴みの警戒感から投資を控えるプレイヤーが増えるため」が12回答、「金利上昇への懸念で、投資家が新たな投資に慎重になるため」が8回答となっている。

下落の理由では、「不動産価格の上昇局面が終わり、下落局面に突入するため」、「2022年から2023年にかけての大量供給で、需給緩和が見込まれるため」、「海外の利上げで、日本でも金利上昇が意識されるため」がそれぞれ3回答となっている。不動産価格の上昇局面の終盤に、物流施設の大量供給の時期を迎え、先行きの金利上昇が懸念されることも相まって、不動産価格が下落に転じるとの意見である。



図表2 上昇・横ばい・下落理由
図表2 上昇・横ばい・下落理由

出所:株式会社一五不動産情報サービス
注:複数回答可で設問。また、左軸上の文章は、読みやすくするため、一部省略している。文章(全文)は、PDF末尾の回答用紙を参照。


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2. 物流施設の賃料水準の見通し

次に、物流施設の賃料水準について半年後の見通しを設問した(図表3参照)。

本調査(22年7月)では「横ばい」が61.8%、「上昇」が28.9%、「下落」が9.3%となった。「上昇」の回答構成比は、2021年1月の57.5%をピークに三回連続で減少する一方、「下落」の回答構成比は前回(22年1月)の3.2%から9.3%へと大幅に増えている。ロシアによるウクライナへの侵攻をきっかけに、この半年間でインフレが進んだが、物流施設の賃料上昇には勢いはなく、賃料水準の見通しでは強気と弱気が交錯している。



図表3 物流施設の賃料水準の見直し(半年後)
図表3 物流施設の賃料水準の見通し(半年後)

出所:株式会社一五不動産情報サービス


半年後の賃料水準の見通しについて、それぞれの理由を確認する(図表4参照)。

上昇理由では「土地価格や建築費などの開発コストが上昇し、その分の賃料転嫁が進むため」が21回答で最多である。また「世界的なインフレが物流施設の賃料にも波及するため」が13回答で前回調査の6回答から倍増する一方、「Eコマースの堅調な需要が続くため」が11回答で、前回調査の22回答から半減している 。コロナ禍で需要の牽引役であったEコマースが落ち着きはじめる一方で、コストプッシュ型のインフレが物流施設にも波及するという意見である。そのほか「飲食料品・日用雑貨・医薬品など、幅広い業種で堅調な需要が期待できるため」と「老朽化した保管型倉庫から、高機能な物流施設に需要がシフトするため」がそれぞれ8回答、「労働力不足で雇用面で優位性のある高機能型物流施設のニーズが高まるため」が7回答であった。

横ばいの理由では「新規開発による供給増と物流ニーズの増加が均衡するため」が46回答で最多で、「この数年で加速した賃料上昇に、上げ止まりの兆しがみられるため」が22回答、「業績低迷による収益性の低下とインフレによる賃料上昇圧力が均衡するため」が12回答となっている。横ばいの回答者は増えているが、その理由には目立った変化はみられず、需給バランスが均衡に向かうことで賃料上昇が落ち着くという意見である。

下落の理由では「物流施設の大量供給で、テナントの獲得競争が激化するため」が9回答で、前回調査の3回答から大幅に増えている。物流施設の開発ラッシュで需給バランスが緩和し、賃料下落に繋がるという意見である。そのほか、「インフレの影響で荷主・物流会社の業績が低迷し賃料値下げ圧力が強まるため」が6回答、「この数年で加速した賃料上昇にテナントが追随できず賃料が下落に転じるため」が3回答となっている。


図表4 上昇・横ばい・下落理由
図表4 上昇・横ばい下落理由

出所:株式会社一五不動産情報サービス
注:複数回答可で設問。また、左軸上の文章は、読みやすくするため、一部省略している。文章(全文)は、PDF末尾の回答用紙を参照。


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3. 業況判断DI

不動産市況のサイクルを把握することを主眼として、不動産価格と賃料水準について業況判断DIを算出した(図表5参照)。

本調査(22年7月)における不動産価格の業況判断DIは54.7ポイントで、前回調査の66.3ポイントから下落した。また、賃料水準の業況判断DIは19.6ポイントで、前回調査の41.0ポイントから大幅に下落した。

不動産価格、賃料水準とも業況判断DIは下落しているが、賃料水準の方が下落幅は大きい。物流施設の大量供給による需給緩和で賃料見通しは横ばいが大勢となっているが、不動産価格については強気のスタンスを維持している市場関係者が比較的多い。


図表5 本アンケートの業況判断DI
図表5 本アンケートの業況判断DI

出所:株式会社一五不動産情報サービス

作成方法:日銀短観の業況判断D.I.を参考に、下式にて算出。

業況判断D.I.=「上昇」の回答者構成比-「下落」の回答者構成比

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4. 物流施設の大量供給の影響

東京圏では今年から来年にかけて、1年あたり400万㎡超(延床面積ベース)の供給予定があり、2年連続での大量供給となる。そこで、本アンケートではこの大量供給が物流不動産市場に与える影響に関して設問した。また、この影響について、楽観的な回答は赤棒、悲観的な回答は青棒、その中間を緑棒で色分けして図示した(図表6参照)。

「立地や物件のクオリティによる格差が拡大し、多極化し混沌とした物流不動産市場となる」が60回答で最多となった。また、先行きを楽観視する「堅調な物流ニーズを背景に、均衡した需給動向が続く」が36回答、悲観的な「玉突き移転で中小・築古倉庫の空室が増える」が33回答で続いている。そのほか、「物流拠点の拡張や移転が増え、物流不動産市場が活性化する」と「空室増による需給悪化で、賃料相場が弱含みとなる」がそれぞれ26回答、「堅調な物流ニーズを背景に、2024年以降も大量供給が続く」が9回答、「需給悪化の懸念から2024年以降に竣工する開発プロジェクトが急減する」が6回答である。

先行きに楽観的な赤棒の回答数は計71回答、悲観的な青棒の回答数は計65回答で、楽観的な意見がやや多い。物流施設の大量供給によるマイナス面はあるものの、市場全体としては肯定的に評価している市場参加者も多く、市場全体の方向感は読みにくい。他方、「立地や物件のクオリティによる格差が拡大し、多極化し混沌とした物流不動産市場となる」が最多となっていることから、“多極化”や“混沌”は今後のマーケットを示唆するキーワードになると考えられる。


図表6 物流施設の大量供給の影響
図表6 大量供給が物流不動産市場に与える影響

出所:株式会社一五不動産情報サービス

注1:複数回答可で設問。

注2:楽観的な選択肢は赤棒、悲観的な選択肢は青棒、その中間を緑棒で色分けしている。

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■アンケート調査の概要、回答用紙につきましては、PDF末尾をご参照ください。

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