物流施設の賃貸マーケットに関する調査(2021年1月時点)

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【東京圏】

・今期(21年1月)の空室率は0.2%で、前期の0.4%からさらに低下し、2008年7月の調査開始以降の最低水準を更新した。
・東京圏の募集賃料は4,410円/坪で、前期の4,400円/坪から10円/坪(プラス0.2%)の上昇となった。東京圏の募集賃料は緩やかな上昇傾向が続いており、特に千葉県の募集賃料が上向いている。

【関西圏】

・今期(21年1月)の空室率は2.8%で、前期の2.5%から0.3ポイントの上昇となった。今期(20年11月~21年1月)の新規供給は23.7万㎡に対し新規需要が21.2万㎡となり、概ね均衡した需給バランスであった。
・関西圏の募集賃料は4,000円/坪で、前期から横ばいであった。2019年10月から1年にわたって上昇基調であったが、今期でその上昇が一段落した。需給環境は良好であることから、再び上昇することも十分に考えられる。


1. 東京圏の賃貸マーケット動向

(1)需給動向

 2021年1月の東京圏の空室率は0.2%で、前期の0.4%から0.2ポイントの低下となり、2008年7月の調査開始以降の最低水準を更新した(図表1参照)。
 具体的にみると、プロロジスによる「プロロジスパーク千葉2」(*1)、三菱地所による「ロジクロス海老名」(*2)、日本GLPによる「GLP平塚Ⅰ」(*3)および「GLP八千代Ⅲ」(*4)、第一生命保険と丸紅アセットマネジメントによる「LOGIPLACE-D Kawagoe」(*5)など計10棟が新たに竣工し、うち9棟が満室での稼働となった。
 今後の開発では、ラサール不動産投資顧問とNIPPOによる「(仮称)松戸物流センター」の着工(*6)、三菱地所による「ロジクロス座間小松原」の着工(*7)、三菱商事都市開発による埼玉県久喜市と千葉県野田市の開発用地の取得(*8)、東京建物による「(仮称)T-LOGI横浜青葉」の着工と千葉県習志野市、千葉市稲毛区および埼玉県加須市の開発用地の取得(*9)、ESRによる「ESR東扇島ディストリビューションセンター」の開発(*10)、日本貨物鉄道と三井不動産による「東京レールゲートEAST」の着工(*11)、シーアールイーによる「ロジスクエア厚木Ⅰ」の開発(*12)が相次ぎ発表された。
 東京圏では既存物件にほとんど空きがなく、開発物件が物流ニーズの受け皿となっており、プレリーシングが順調である。臨海・内陸を問わず当面は良好な需給環境が続く見通しである。

202101_市況_図表1 東京圏の空室率の動向

202101_市況_図表2 東京圏の需給バランスの動向
出所:株式会社一五不動産情報サービス

1.2020年11月25日付 プロロジス プレスリリースより
2.2020年11月30日付 三菱地所(株) プレスリリースより
3.2020年12月7日付 日本GLP(株) プレスリリースより
4.2021年1月14日付 日本GLP(株) プレスリリースより
5.2021年2月5日付 第一生命保険(株)、丸紅アセットマネジメント(株) プレスリリースより
6.2020年11月25日付 ラサール不動産投資顧問(株)、(株)NIPPO プレスリリースより
7.2020年11月30日付 三菱地所(株) プレスリリースより
8.2020年12月2日付 三菱商事都市開発(株) プレスリリースより
9.2020年12月2日付、2021年1月13日付 東京建物(株) プレスリリースより
10.2020年12月8日付 ESR(株) プレスリリースより
11.2020年12月10日付 日本貨物鉄道(株)、三井不動産(株) プレスリリースより
12.2020年12月17日付 (株)シーアールイー プレスリリースより


(2)賃料動向

 2021年1月の東京圏の募集賃料は4,410円/坪で、前期の4,400円/坪から10円/坪(プラス0.2%)の上昇となった。東京圏の募集賃料は緩やかな上昇傾向が続いており、特に千葉県の募集賃料の上昇が顕著である。

202101_市況_図表3 東京圏の募集賃料の動向 出所:株式会社一五不動産情報サービス
注:Nはサンプル数を示す。点線は各期の賃料サンプルのうち、上位10%と下位10%を結んだもので、賃料サンプルのバラつき具合を示す。

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2. 関西圏の賃貸マーケット動向

(1)需給動向
 2021年1月の関西圏の空室率は2.8%で、前期の2.5%から0.3ポイントの上昇となった。今期(20年11月~21年1月)の新規供給は23.7万㎡に対し、新規需要が21.2万㎡となり、概ね均衡した需給バランスであった(図表4参照)。
 具体的にみると、今期は4棟が新たに竣工し、シーアールイーによる「ロジスクエア大阪交野」(*13)は約50%の契約率での竣工となったが、その他3棟は満室での稼働となった(*14)。
 今後の開発では、伊藤忠商事、伊藤忠都市開発および山陽電気鉄道による「(仮称)アイミッションズパーク箕面」(*15)、センターポイント・ディベロップメントによる「CPD西宮北」(*16)が発表された。
 関西圏では2017年10月から2年以上にわたり需給改善が続き、2020年1月以降の空室率は2~3%の水準で低位安定である。2021年のマルチテナント型物流施設の開発は内陸部が多く、プレリーシングが順調に進んでいる。東京圏と同様に、関西圏でも良好な需給環境が続く見通しである。


202101_市況_図表4 関西圏の空室率の動向

202101_市況_図表5 関西圏の需給バランスの動向
出所:株式会社一五不動産情報サービス

13.2021年2月1日付 (株)シーアールイー プレスリリースより
14.当文章の一部に誤りがあり、訂正いたしました(2021年3月1日に訂正)。
15.2020年12月24日付 伊藤忠商事(株)、伊藤忠都市開発(株)、山陽電気鉄道(株) プレスリリースより
16.2021年1月25日付 (株)センターポイント・ディベロップメント プレスリリースより


(2)賃料動向
 2021年1月の関西圏の募集賃料は4,000円/坪で、前期から横ばいとなった。2019年10月の3,560円/坪から1年にわたって上昇基調であったが、今期でその上昇が一段落した。上述の通り、需給環境は良好であることから、再び上昇することも十分に考えられる。

202101_市況_図表6 関西圏の募集賃料の動向 出所:株式会社一五不動産情報サービス
注:Nはサンプル数を示す。点線は各期の賃料サンプルのうち、上位10%と下位10%を結んだもので、賃料サンプルのバラつき具合を示す。

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トピックス ~ポストコロナを見据えた不動産市場の定性的な見通し~

 新型コロナウイルスのワクチン接種が日本国内でようやく始まり、2月17日よりまずは医療従事者を対象にスタートした。ワクチン接種の機会が、国内居住者にあまねく行き渡るのは随分と先になりそうだが、ビジネス分野ではコロナ後が意識される展開にすでに突入している。そこで、物流施設の不動産市場を対象に、ポストコロナを見据えた定性的な見通しを考察する。

・開発用地の価格高騰と物流立地の多様化
 コロナ禍での巣ごもり消費によりEコマースの業容拡大が続き、その恩恵を享受する物流施設では需要が堅調で、上述の通り足元の需給バランスは逼迫している。これに伴って大きく二つの変化が起こっている。
 まずは物流適地における開発用地の入札での価格高騰である。コロナ禍で商業施設やホテルなど他用途の建設需要は低迷していることから建築費は落ち着いているものの、土地価格の高騰が募集賃料に影響しないわけはなく、新築物件では強気の募集賃料の設定が増えてくることは間違いない。
 もうひとつは以前であれば見向きもされなかった立地での開発プロジェクトが増えている。道路インフラの整備や物流ニーズの変遷などを見据えた、優れた目利きによる用地選定がみられる一方で、主要な幹線道路へのアクセスが脆弱だったり、雇用確保に難があったりと、物流施設の運営が若干懸念される開発案件も散見される。今後の新築物件は好立地で募集賃料も高い高機能型物流施設と、好立地とは言い難いが心地よい賃料設定の物流施設に大きく二極化されるだろう。


・市場メカニズムで需給均衡に向かう
 東京圏や関西圏における不動産市場では需給バランスが逼迫している。需要があれば供給が増えるのが市場メカニズムだが、一般的に不動産市場では開発用地の入手の難しさが、供給余力の向上の障害となる。物流施設に限れば、道路インフラの整備で物流立地が広域化し、最近では工場跡地からの物流転用だけでなく、土地区画整理事業など多様なルートで開発用地が供給されるようになっている。
 現在の堅調な需要やプレリーシングの状況を考慮すると、物流施設の需給逼迫が早期に解消に向かうことは考えにくいが、事業環境の変化スピードはますます加速し、コロナ禍での緊急事態宣言下においてもディベロッパーの動きは相当に活発で、物流施設の開発事業に参入するディベロッパーも次々と誕生している。そもそも物流施設はオフィスビル等と比べて開発期間は短い。さほど遠くない時期に物流施設の需給バランスは均衡に向かうだろう。


・需給均衡後の世界
 現在の需給逼迫は中期的には需給均衡に向かい、空室が増える局面は必ずやって来る。不動産は典型的な有形資産であるが、物流施設の価値は立地や建物などのハード面だけでなく、その施設を管理・運営する能力や物流・不動産業界のネットワーク、ブランド力などソフト面にも左右される。また、物流業界が大変革期を迎える環境下で、物流施設ディベロッパーは物流自動化・省人化や雇用確保への支援などソフト面のサービスを次々と拡充し、新たな付加価値を生み出している。したがって、物流施設については、有形資産である不動産への投資だけでなく、無形資産への投資の分厚さで勝敗が決する時代になりそうだ。物流施設を借りるテナントや資金を提供する投資家や金融機関にとって、不動産単体のポテンシャルだけでなく、物流施設を開発・運営・管理する企業の見極めがこれまで以上に重要になる。


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