第13回物流施設の不動産市況に関するアンケート調査

  • 全て
  • 市況
  • アンケート
  • 予測
  • 特集
questionnaire

【不動産価格の見通し】

「上昇」が68.5%となり、5年ぶりに減少に転じる。市場関係者の一部に高値警戒感が出始めたことが「上昇」の減少に繋がったと考えられる。

【賃料水準の見通し】

「上昇」が54.3%で、調査開始以来、初めて「上昇」の構成比が過半数を占めた。その理由として、土地価格や建設費など開発コストの上昇を挙げる回答者が多くみられた。

1.物流施設の不動産価格の見通し

 本調査(14年1月)では「上昇」が68.5%で、「横ばい」は29.3%、「下落」は2.2%となった。「上昇」の構成比は第3回(09年1月)の2.4%を底に、前回の82.0%まで9回連続で増えていたが、本調査で5年ぶりに減少に転じた。不動産投資市場には過熱感があり、市場関係者の一部に高値警戒感が出始めたことが「上昇」の構成比の減少に繋がったと考えられる。
 一方、「横ばい」の構成比は29.3%で、前回(13年7月)の16.9%から増加している。また、「下落」の構成比は2.2%と少数派であるが、その構成比は2回連続で増えている。



図表1 物流施設の不動産価格の見通し(半年後)
20140303_アンケート_図表1物流施設の不動産価格の見通し(半年後)width=

出所:株式会社一五不動産情報サービス
注:第1回(08年1月)から第10回(12年7月)までの設問対象は「土地価格」で、第11回(13年1月)より「不動産価格」に変更している。詳細は2013年3月4日発表の弊社レポートを参照。


 半年後の物流施設の不動産価格の見通しについて、それぞれの理由を確認する(図表2参照)。
 上昇理由では「投資家層の拡がりから、物流施設への不動産投資が更に活発になるため」が49回答と最多で、「資金調達環境が良好なため」が34回答、「建設コストが上昇するため」が28回答と続いている。活況の不動産投資市場を背景に、不動産価格が更に上昇するという意見で、前調査と概ね同傾向である。また、「物流施設の賃料水準が上昇するため」が19回答で、前回(13年7月)の9回答から大幅に増加し、賃料アップによる不動産価格の上昇という好循環を期待する意見が増えた。そのほかでは「日本経済の安定的な成長が期待できるため」が17回答、「インフレ予想から不動産投資市場に資金が更に流入するため」が14回答となっている。

 横ばいの理由では「不動産価格が上昇局面から踊り場にさしかかるため」が13回答で、前回の7回答から増えている。また「賃料水準の見通しに大きな変化がないため」が10回答、「売り手・買い手とも様子見で、売買市場が均衡するため」が4回答、「金利の見通しに大きな変化がないため」が3回答と続いている。横ばいの回答者の傾向としては、不動産価格の上昇が長期に及んでいることから、更なる上昇余地が乏しいことや局面変化を予想する意見がみられた。
 下落の理由では「物流施設の賃料水準が下落するため」と「日本経済の見通しが暗いため」がそれぞれ1回答となっている。



図表2 上昇・横ばい・下落理由
20140303_アンケート_図表2上昇・横ばい・下落理由

出所:株式会社一五不動産情報サービス
注:複数回答可で設問。


目次へ

2.物流施設の賃料水準の見通し

 次に、物流施設の賃料水準について半年後の見通しを設問した(図表3参照)。
 本調査(14年1月)では「上昇」の構成比が54.3%となり、調査開始以来、初めて「上昇」が過半数を占めた。一方「横ばい」の構成比は44.6%で、前回(13年7月)の62.9%から減少し、「下落」の構成比は1.1%で前回から横ばいであった。物流施設の賃料見通しは第3回(09年1月)を底に、過去5年間にわたり緩やかに改善してきたが、本調査では「上昇」の構成比が急上昇し、楽観的な見通しが優勢になっている。



図表3 物流施設の賃料水準の見直し(半年後)
20140303_アンケート_図表3物流施設の賃料水準の見通し(半年後)

出所:株式会社一五不動産情報サービス


 半年後の賃料水準の見通しについて、それぞれの理由を確認する(図表4参照)。
 上昇理由では「土地価格や建設費などの開発コストが上昇し、その分の賃料転嫁が進むため」が34回答で突出しており、開発コストの上昇が市場関係者の賃料見通しに大きな影響を与えている。そのほかでは「ネット通販が需要を更に牽引するため」が20回答、「高機能な大型物流施設の大量供給によって、潜在的な需要が喚起されるため」が17回答、「飲食料品・日用雑貨・医薬品など幅広い業種で需要拡大が期待できるため」が15回答、「老朽化した保管型倉庫から高機能な賃貸物流施設に移転するケースが増えるため」が14回答で、前アンケートと概ね同傾向である。

 横ばいの理由は「荷主・物流会社の賃料負担力に変化がないため」が25回答で最多となり、「新規開発による供給増と物流ニーズの増加が均衡するため」が15回答、「物流業界に大きな変化がなく、安定しているため」が13回答で続いている。前アンケートと回答傾向は概ね一致しており、物流セクターの特徴のひとつである安定性に加え、物流施設の需給バランスが均衡していることが横ばいの主な理由となっている。
 下落理由では「物流施設の大量供給で、テナントの獲得競争が激化するため」、「割安な賃料設定を武器に、テナントを引き付ける賃貸物流施設が増えるため」および「再びデフレになるため」が各1回答である。


図表4 上昇・横ばい下落理由
20140303_アンケート_図表4上昇・横ばい下落理由

出所:株式会社一五不動産情報サービス
注:複数回答可で設問。


目次へ

3.需要増の要因

 賃貸物流施設の新規稼働が相次いでいるが、供給過剰に陥らず均衡した需給環境が続いていることから、本アンケートにおいて需要増の要因について設問した。

 「ネット通販による需要増が続いているため」が57回答で最多となり、次いで「圏央道などの道路インフラの整備によって、物流適地が変化しているため」が54回答、「BCP(事業継続計画)の観点から、高機能な物流施設が支持されているため」が46回答となっている。当アンケートは複数回答可で設問したが、上位3つの選択肢を全て選んだ回答者は20回答に上った。賃貸物流施設に対する需要増は、ある特定要因で発生しているのではなく、ネット通販など成長セクターによる需要増に加え、圏央道などの物流インフラの整備やBCPを踏まえた高機能物流施設へのシフトなど複合的な要因によって、旺盛な需要が生み出されたという見解である。
 また「所有から賃貸へのシフトが続いているため」が19回答と比較的少なく、「日本経済が成長しているため」も10回答で、昨年より好転した日本経済の動向と物流需要の拡大を結びつける意見もあまりみられなかった。「その他」の自由回答欄には、3PL市場の拡大や物流戦略の変化などの意見がみられた。
 なお「需要は増えていない」が12回答で、全回答者(N=92)の13%を占め、需要増自体に否定的という貴重な意見も一定数確認できた。


図表5 需要増の要因
20140303_アンケート_図表5需要増の要因

出所:株式会社一五不動産情報サービス
注:複数回答可で設問。


目次へ

4.業況判断DI

 不動産市況のサイクルのうち、本調査時点がどの段階にあるかを認識することを主眼として、日銀短観のように、不動産価格および賃料水準について業況判断DIを算出した(図表6参照)。

 本調査(14年1月)における不動産価格の業況判断DIは66.3ポイントで、前回(13年7月)の80.9ポイントから下落した。不動産価格の業況判断DIは2009年1月を底に順調に改善してきたが、本調査で下落に転じた。数年にわたり不動産価格の上昇が続いたことで、一部の投資家に高値警戒感が出始めており、更なる価格上昇を促す材料が乏しいことも下落理由のひとつである。他方、本調査における賃料水準の業況判断DIは53.3ポイントで、前回の34.8ポイントから更に上昇している。大都市圏では賃貸物流施設の新規開発が相次いでいるが、供給過剰に陥らず需給環境が良好なことも、賃料水準の見通しに影響しているようだ。

 一年前の2013年1月時点では不動産価格と賃料水準の業況判断DIには、49.4ポイントの格差があったが、本調査ではその格差は13.0ポイントまで縮小している。投資先のひとつとして、多様な投資家から物流セクターが注目され、賃貸事業の収益性とは関係なく一本調子で価格が上昇していたが、そのフェーズは終わりつつある。今後は、賃貸事業の収益性の向上が期待される局面に入ってくるだろう。


図表6 本アンケートの業況判断DI
20140303_アンケート_図表6本アンケートの業況判断DI

出所:株式会社一五不動産情報サービス
作成方法:日銀短観の業況判断D.I.を参考に、下式にて算出。
業況判断D.I.=「上昇」の回答者構成比-「下落」の回答者構成比

目次へ

■アンケート調査の概要、回答用紙につきましては、PDF末尾をご参照ください。

レポートをPDFでダウンロード