第29回物流施設の不動産市況に関するアンケート調査

  • 全て
  • 市況
  • アンケート
  • 予測
  • 特集
questionnaire

【不動産価格の見通し】
半年後の不動産価格の見通しは「上昇」が66.3%、「横ばい」が33.7%、「下落」の回答者はいなかった。不動産価格の見通しでは「上昇」が約3分の2を占め、依然として強気の見通しが支配的である。

【賃料水準の見通し】
半年後の賃料の見通しは「横ばい」が52.6%で最多となり、「上昇」が44.2%、「下落」が3.2%となった。「上昇」の回答構成比は前々回(21年1月)が57.5%、前回(21年7月)が51.9%、今回(22年1月)が44.2%と緩やかに減少しており、コロナ禍で順調に進んだ賃料上昇の勢いに陰りがみられる。

1. 物流施設の不動産価格の見通し

物流施設の不動産市況について、半年毎のアンケート調査を実施した。アンケート回答者の属性など調査の詳細はPDFを参照のこと。

物流施設の不動産価格について半年後の見通しを設問した(図表1参照)。本調査(22年1月)では「上昇」が66.3%と最多で、「横ばい」が33.7%、「下落」の回答者はいなかった。不動産価格の見通しでは「横ばい」の構成比が約3分の1まで拡大したものの、「上昇」が約3分の2を占め、依然として強気の見通しが支配的である。



図表1 物流施設の不動産価格の見通し(半年後)
図表1 物流施設の不動産価格の見通し(半年後)

出所:株式会社一五不動産情報サービス


半年後の物流施設の不動産価格の見通しについて、それぞれの理由を確認する(図表2参照)。

上昇理由では「コロナ禍で物流施設へ投資するプレイヤーが増え、物件獲得競争が激化するため」が48回答で最多で、「コロナ禍で物流施設への注目が続き、今後も活発な投資が続くため」が42回答、「良好な資金調達環境が続くため」が36回答となっている。長引くコロナ禍で、新規参入したプレイヤーを含めた物件獲得競争が続き、良好な資金調達環境も相まって、不動産価格がさらに上昇するとの意見である。また、「物流施設の建築費が上昇するため」が24回答で、前回調査の6回答から4倍に急増していることも特徴的である。そのほかでは、「物流施設の賃料水準が上昇するため」が17回答、「資産インフラへの期待感から不動産への資金流入が続くため」が14回答となっている。

横ばいの理由では「キャップレートの更なる低下が見込みづらいため」が16回答、「賃料水準の見通しに大きな変化がないため」が15回答で、上位二つの横ばい理由は不変である。また、「投資市場が過熱し高値掴みへの警戒感から投資を控えるプレイヤーが増えるため」が11回答で、前回調査の5回答から倍増している。不動産価格の高値警戒感が今まで以上に強くなっている。そのほか、「Eコマース拡大のプラス面と景気後退による需要減退のマイナス面が均衡するため」が9回答、「不動産価格が上昇局面から踊り場に移行するため」が7回答で続いている。



図表2 上昇・横ばい・下落理由
図表2 上昇・横ばい・下落理由

出所:株式会社一五不動産情報サービス
注:複数回答可で設問。また、左軸上の文章は、読みやすくするため、一部省略している。文章(全文)は、PDF末尾の回答用紙を参照。


目次へ

2. 物流施設の賃料水準の見通し

次に、物流施設の賃料水準について半年後の見通しを設問した(図表3参照)。

本調査(22年1月)では「横ばい」が52.6%で最多となり、「上昇」が44.2%、「下落」が3.2%となった。「上昇」の回答構成比は前々回(21年1月)が57.5%、前回(21年7月)が51.9%、今回(22年1月)が44.2%と緩やかに減少しており、コロナ禍で順調に進んだ賃料上昇の勢いに陰りがみられる。また、「下落」の回答構成比が前回調査(21年7月)の1.2%からじわりと増えていることも本調査での特長である。



図表3 物流施設の賃料水準の見直し(半年後)
図表3 物流施設の賃料水準の見通し(半年後)

出所:株式会社一五不動産情報サービス


半年後の賃料水準の見通しについて、それぞれの理由を確認する(図表4参照)。

上昇理由では「土地価格や建築費などの開発コストが上昇し、その分の賃料転嫁が進むため」が32回答で最多で、前回調査の25回答から大幅に増えている。また、「長引くコロナ禍でEコマースの需要がさらに拡大するため」が22回答、「飲食料品・日用雑貨・医薬品など、幅広い業種で堅調な需要が期待できるため」が20回答、「老朽化した保管型倉庫から、高機能な物流施設に需要がシフトするため」が16回答、「労働力不足で雇用面で優位性のある高機能型物流施設のニーズが高まるため」が11回答で続いている。賃料上昇理由のトップが、開発コストの上昇が賃料上昇に繋がるというコストプッシュ型で、その後にディマンドプル型の上昇理由が続いている。また、「世界的なインフレが物流施設の賃料にも波及するため」も6回答と一定数を占めている。

横ばいの理由では「新規開発による供給増と物流ニーズの増加が均衡するため」が31回答で最多で、前回調査の19回答から大幅に増えている。また、「コロナ禍で加速した賃料上昇に、上げ止まりの兆しがみられるため」が16回答、「景気後退による収益性の低下と需給ひっ迫による賃料上昇圧力が均衡するため」が11回答となっている。

下落の理由では「物流施設の大量供給で、テナントの獲得競争が激化するため」が3回答で、今後の大量供給を懸念する意見がじわりと増えている。また「高機能な物流施設の大量供給で、大型物件の優位性が薄れるため」と「コロナ禍で荷主・物流会社の業績が低迷し、賃料の値下げ圧力が強まるため」がそれぞれ1回答である。
周知の通り、物流施設の開発ラッシュが続いている。横ばい理由のトップが、供給増が賃料上昇の抑制に繋がるという意見で、下落理由のトップも大量供給に起因する内容で、物流施設の開発ラッシュが賃料の下押し圧力となっている。


図表4 上昇・横ばい・下落理由
図表4 上昇・横ばい下落理由

出所:株式会社一五不動産情報サービス
注:複数回答可で設問。また、左軸上の文章は、読みやすくするため、一部省略している。文章(全文)は、PDF末尾の回答用紙を参照。


目次へ

3. 業況判断DI

不動産市況のサイクルを把握することを主眼として、不動産価格と賃料水準について業況判断DIを算出した(図表5参照)。

本調査(22年1月)における不動産価格の業況判断DIは66.3ポイントで、前回調査の66.7ポイントから概ね横ばいとなった。他方、賃料水準の業況判断DIは41.0ポイントで、前回調査の50.7ポイントから下落した。

不動産価格の業況判断DIは1年前の2021年1月から概ね横ばいだが、賃料水準の業況判断DIは2回連続で減少し、不動産価格と賃料水準の業況判断DIが乖離しはじめている。収益性の向上は期待しづらくなる一方、不動産価格に関しては依然として強気の見通しが支配的である。


図表5 本アンケートの業況判断DI
図表5 本アンケートの業況判断DI

出所:株式会社一五不動産情報サービス

作成方法:日銀短観の業況判断D.I.を参考に、下式にて算出。

業況判断D.I.=「上昇」の回答者構成比-「下落」の回答者構成比

目次へ

4. 物流の2024年問題

2019年に働き方改革関連法が施行されたが、2024年4月から運送業にも適用される。そのため、トラックドライバーの残業時間に制限が導入される「物流の2024年問題」に注目が集まっている。トラックドライバーの人手不足はすでに深刻な問題で、直近の2021年12月時点で「自動車運転」の有効求人倍率は2.25倍となり、全職業平均の1.14倍を大幅に上回っている。そこで、本アンケートでは「物流の2024年問題」が物流施設に与える影響に関して設問した(図表6参照)。

「トラックバースや待機スペースが充実した物流施設の評価が高まる(荷待ち時間の改善)」が47回答で最多となり、全回答者(95名)の約半数が選択している。ドライバーが荷物の積み下ろしを待機する荷待ち時間を削減する重要性が叫ばれているものの、改善があまり進んでいない物流現場が依然として多く、物流施設やオペレーションの高機能化で、この問題に対処していくことが期待されている。また、物流立地の視点では「消費地近くの物流立地の評価が高まる」が35回答、「高速IC近くの物流立地の評価が高まる」が34回答で、好立地の物流施設がさらに評価されるようになることが示唆されている。なお「渋滞しやすい大都市圏が敬遠され、物流立地が広域化する」は8回答と少なかった。また、「目立った影響はみられない」は9回答で、全回答者(95名)の1割以下と少なく、大半の回答者が「2024年問題」で、物流施設に何らかの影響があると判断している。

トラックドライバーは地域を問わず慢性的な人手不足に陥っているが、コロナ禍で雇用情勢がさほど逼迫していないにも関わらず、倉庫内の軽作業でも労働力の確保が難しい物流エリアが増えている。特に、人口減少が進む地方都市ではこの傾向が顕著で、首都圏でも郊外エリアでは、同傾向がすでにみられはじめている。省力化投資で自動化を推し進めるだけで解決できる問題ではなく、労働力の確保は、立地選定や物流施設開発で最も重要視すべき事柄のひとつとなっている。


図表6 物流の2024年問題が物流施設に与える影響

図表6 ポストコロナにおけるEコマースの成長率

出所:株式会社一五不動産情報サービス

注:複数回答可で設問。

目次へ

■アンケート調査の概要、回答用紙につきましては、PDF末尾をご参照ください。

レポートをPDFでダウンロード