第27回物流施設の不動産市況に関するアンケート調査

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【不動産価格の見通し】
半年後の不動産価格の見通しは「上昇」が70.0%、「横ばい」が27.5%、「下落」が2.5%となった。「上昇」の回答構成比は前回調査の45.7%から大幅増となり、不動産価格に関しては強気の見通しが支配的である。

【賃料水準の見通し】
半年後の賃料の見通しは「上昇」が57.5%、「横ばい」が41.2%、「下落」が1.3%となった。前回調査ではコロナ禍での景気悪化を懸念し強気の見通しが一時的に後退したが、本調査では2017年7月から続く上昇トレンドに回帰し、「上昇」の回答構成比は2008年1月の調査開始以来で最も高くなった。

1. 物流施設の不動産価格の見通し

物流施設の不動産市況について、半年毎のアンケート調査を実施した。なお、本アンケートは7月21日(火)から同月31日(金)にかけて実施した。設問に新型コロナウィルスに対する意識を調査する選択肢を設けたアンケート結果となる。

物流施設の不動産価格について半年後の見通しを設問した(図表1参照)。本調査(21年1月)では「上昇」が70.0%で最多となり、「横ばい」が27.5%、「下落」が2.5%となった。「横ばい」の回答構成比が前回調査から減少する一方、「上昇」の回答構成比が大幅に増加した。「上昇」が大勢を占めるのは2015年7月以来で、不動産価格に関しては強気の見通しが支配的である。



図表1 物流施設の不動産価格の見通し(半年後)
図表1 物流施設の不動産価格の見通し(半年後)

出所:株式会社一五不動産情報サービス


半年後の物流施設の不動産価格の見通しについて、それぞれの理由を確認する(図表2参照)。

上昇理由では「コロナ禍で物流施設が注目され、今後も活発な投資が続くため」が48回答で最多である。また、「コロナ禍で物流施設へ投資するプレイヤーが増え物件獲得競争が激化するため」が46回答で、前回調査の29回答から大幅に増えている。物流施設の開発事業への新規参入が増えていることが不動産価格の上昇に繋がるとの意見である。また、「良好な資金調達環境が続くため」が30回答、「物流施設の賃料水準が上昇するため」が23回答、「資産インフレへの期待感から不動産への資金流入が続くため」が7回答、「物流施設の建設費が上昇するため」が5回答となった。

横ばいの理由では「コロナ禍によるEコマース拡大のプラス面と需要減退のマイナス面が均衡するため」が10回答で最多となり、「不動産価格が上昇局面から踊り場に移行するため」が8回答、「賃料水準の見通しに大きな変化がないため」が7回答となった。また、「キャップレートの更なる低下が見込みづらいため」も7回答で、前回調査の17回答から大幅に減少している。市場関係者で、キャップレートが底に近いと感じている方が大幅に減少している。逆説的であるが、キャップレートのさらなる低下があり得る局面に入っていることを示唆している。

下落の理由では「コロナ禍での先行きの不透明感からリスクマネーが縮小するため」が2回答、「不動産価格が急騰しており、一時的な調整が見込まれるため」1回答であった。下落の回答者は少数派ではあるが、不確実な情勢を踏まえた回答でそれぞれ注目に値する。



図表2 上昇・横ばい・下落理由
図表2 上昇・横ばい・下落理由

出所:株式会社一五不動産情報サービス
注:複数回答可で設問。また、左軸上の文章は、読みやすくするため、一部省略している。文章(全文)は、PDF末尾の回答用紙を参照。


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2. 物流施設の賃料水準の見通し

次に、物流施設の賃料水準について半年後の見通しを設問した(図表3参照)。

本調査(21年1月)では「上昇」が57.5%で最多となり、「横ばい」が41.2%、「下落」が1.3%となった。「上昇」の回答構成比が前回調査(20年7月)の35.8%から大幅に増え、新型コロナウイルスによる影響が軽微だった前々回調査(20年1月)の48.8%からも増加している。前回調査(20年7月)ではコロナ禍での景気悪化を懸念し強気の見通しが一時的に後退したが、本調査(21年1月)では2017年7月から続く賃料上昇トレンドに回帰し、「上昇」の回答構成比は2008年1月の調査開始以来で最も高くなった。



図表3 物流施設の賃料水準の見直し(半年後)
図表3 物流施設の賃料水準の見通し(半年後)

出所:株式会社一五不動産情報サービス


半年後の賃料水準の見通しについて、それぞれの理由を確認する(図表4参照)。

上昇理由では「コロナ禍でEコマースの需要がさらに拡大するため」が39回答で最多で、Eコマースが需要を牽引し、好調なマーケットが続くという意見である。また「コロナ禍で飲食料品・日用雑貨など幅広い業種で堅調な需要が期待できるため」が27回答、「土地価格や建築費などの開発コストが上昇し、その分の賃料転嫁が進むため」が17回答で、前回調査の6回答から大幅に増加した。開発用地の取得競争の激化で上昇する土地価格が、賃料に転嫁されるという意見が増えている。そのほか「老朽化した保管型倉庫から、高機能な物流施設に需要がシフトするため」が17回答、「雇用面で優位性のある高機能型物流施設へのニーズが高まるため」が15回答、「災害時に備えBCP対策が充実した高機能型物流施設へのニーズが高まるため」が7回答になっている。

横ばいの理由では「コロナ禍でのEコマース拡大のプラス面と景気悪化のマイナス面が均衡するため」が20回答で最多となり、「新規開発による供給増と物流ニーズの増加が均衡するため」が14回答、「景気悪化による収益性の低下と需給逼迫による賃料上昇圧力が均衡するため」が9回答となっている。コロナ禍は賃料の上昇圧力となるプラス面と下落圧力となるマイナス面があり、両者が均衡して横ばいとなる意見である。

下落の理由では「物流施設の大量供給で、テナントの獲得競争が激化するため」、「コロナ禍で荷主・物流会社の業績が低迷し、賃料の値下げ圧力が強まるため」、「コロナ禍が長期化し、日本経済の停滞が長引くため」がそれぞれ1回答である。


図表4 上昇・横ばい・下落理由
図表4 上昇・横ばい下落理由

出所:株式会社一五不動産情報サービス
注:複数回答可で設問。また、左軸上の文章は、読みやすくするため、一部省略している。文章(全文)は、PDF末尾の回答用紙を参照。


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3. 業況判断DI

不動産市況のサイクルを把握することを主眼として、不動産価格と賃料水準について業況判断DIを算出した(図表5参照)。

本調査(21年1月)における不動産価格の業況判断DIは67.5ポイントで、前回調査の43.2ポイントから24.3ポイントの大幅な上昇となった。また、賃料水準の業況判断DIは56.3ポイントで、不動産価格と同様に前回から大幅な上昇となった。

不動産価格の業況判断DIは、2012年7月から2015年7月に至る期間と同様に高水準である。この時期は2012年12月に第2次安倍政権が発足し、大胆な金融政策を含むアベノミクス「三本の矢」で株価が急上昇した期間である。現在も日経平均株価が3万円を突破し、ビットコインなどの仮想通貨まで急上昇するなど資産インフレが急速に進んでいる。本調査における不動産価格の業況判断DI
の押し上げは、Eコマースの追い風を受ける物流施設の評価の高まりに加えて、新たな局面への移行で資産クラス全体が押し上げられている面も否定できない。

賃料水準の業況判断DIは、前回調査(20年7月)で一時的に低下したが、再び上昇基調に回帰している。前回調査はコロナ禍での先行き不透明感からやや保守的なスタンスもみられたが、現在は強気の賃料見通しが支配的で、2017年7月のマイナス15.9ポイントを底に反転した上昇トレンドが持続していると判断している。


図表5 本アンケートの業況判断DI
図表5 本アンケートの業況判断DI

出所:株式会社一五不動産情報サービス

作成方法:日銀短観の業況判断D.I.を参考に、下式にて算出。

業況判断D.I.=「上昇」の回答者構成比-「下落」の回答者構成比

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4. コロナ禍で注目するトピックス

コロナ禍で構造変化が加速している。そこで物流・不動産業界で注目するトピックスについて、本アンケートにて設問した(図表6参照)。


図表6 コロナ禍で注目するトピックス

図表6 コロナ禍で注目するトピックス

出所:株式会社一五不動産情報サービス

注:複数回答可で設問。また、エリア名称は見やすくするため一部を省略している。エリア名称(全文)は本レポート末尾の回答用紙を参照。


「技術革新(物流自動化/自動運転など)」が49回答で最多で、「Eコマース」が47回答、「都市型物流施設(ラストワンマイル)」が45回答で続いている。
人手不足が深刻な物流業界において、技術革新(物流自動化/自動運転など)は欠かせないテーマで、コロナ禍で成長スピードが加速するEコマース、Eコマースからのニーズによって新たなカテゴリーが誕生しつつある都市型物流施設も同様に注目視されている。また、本アンケートの有効回答数は80回答で、上位三つのトピックスは6割前後の回答者が選択しており、現在の物流施設を語るうえで、欠かせないテーマであることが再確認できた。

「環境配慮/グリーンロジスティクス(CO2削減・リサイクルなど)」は20回答とやや少ないが、運送部門でCO2を排出する物流業界では、環境配慮やグリーンロジスティクスは、新たなコスト負担に繋がりやすい。本音では避けたいテーマかもしれないが、これからは今以上に重点領域となってくるため、外せないトピックスのひとつである。

「自然災害への対応(免震や非常用発電など)」は12回答と最も少なかった。これは自然災害が頻発する事業環境下で、その都度で注目するトピックスではなく、継続的に対処しつづけることが当然視される項目になった結果だと考えられる。

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■アンケート調査の概要、回答用紙につきましては、PDF末尾をご参照ください。

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