第24回物流施設の不動産市況に関するアンケート調査

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【不動産価格の見通し】

半年後の不動産価格の見通しは「上昇」が39.1%となり、前回調査の27.5%から大幅に増える一方、「下落」が1.1%まで減少した。不動産価格は高止まりの膠着状態から脱し、再び上昇するという気運がみられる。

【賃料水準の見通し】

半年後の賃料の見通しは「横ばい」が60.9%と最多で、「上昇」が38.0%、「下落」が1.1%となった。「上昇」の回答構成比は2017年7月の4.9%を底に4回連続で増加している。今後、数年間にわたり物流施設の大量供給が見込まれるが、賃料水準の楽観的な見通しがさらに勢いを増している。

1.物流施設の不動産価格の見通し

物流施設の不動産市況について、半年毎のアンケート調査を実施した。

物流施設の不動産価格について半年後の見通しを設問した(図表1参照)。本調査(19年7月)では「上昇」が39.1%と前回調査の27.5%から大幅に増える一方、「下落」は1.1%まで減少した。アンケートの回答傾向は2017年1月から2019年1月までの2年間に大きな変化はみられなかったが、本調査で「上昇」の回答構成比が4割近くまで増加した。不動産価格は高止まりの膠着状態から脱し、再び上昇するという気運がみられる。



図表1 物流施設の不動産価格の見通し(半年後)
図表1 物流施設の不動産価格の見通し(半年後)

出所:株式会社一五不動産情報サービス


半年後の物流施設の不動産価格の見通しについて、それぞれの理由を確認する(図表2参照)。

上昇理由では「物流施設への活発な投資が続くため」が25回答で最多となり、次いで「物流施設へ投資するプレイヤーが更に増え、物件獲得競争が激化するため」が20回答、「良好な資金調達環境が続くため」が15回答となった。上昇理由の上位は前回から同傾向で、良好な資金調達環境を背景に、新規参入が相次いでいることが物件獲得競争の激化に繋がり、不動産価格を押し上げるという意見である。また、「物流施設の賃料水準が上昇するため」が11回答となり、前回調査の5回答から大幅に増えた。物流施設の収益性が高まっていることも、不動産価格の上昇に繋がっている。

横ばいの理由では「キャップレートの更なる低下が見込みづらいため」が31回答で、「賃料水準の見通しに大きな変化がないため」が29回答、「不動産価格が上昇局面から踊り場に移行するため」が19回答である。横ばいの理由は前回調査から大きな変化はみられない。その他の回答では「不動産投資市場の過熱感から、投資を控えるプレイヤーが増えるため」が9回答、「日本経済の見通しが安定しているため」が5回答となっている。

下落理由は「米中摩擦によってグローバル経済が後退し、リスクマネーが縮小するため」が1回答で、国内ではなくグローバルに端を発するリスクを警戒している。



図表2 上昇・横ばい・下落理由
図表2 上昇・横ばい・下落理由

出所:株式会社一五不動産情報サービス
注:複数回答可で設問。また、左軸上の文章は、読みやすくするため、一部省略している。文章(全文)は、PDF末尾の回答用紙を参照。


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2.物流施設の賃料水準の見通し

次に、物流施設の賃料水準について半年後の見通しを設問した(図表3参照)。

本調査(19年7月)では「横ばい」が60.9%と最多で、「上昇」が38.0%、「下落」が1.1%となった。「下落」の回答構成比は2017年1月の25.0%から5回連続で減少する一方、「上昇」の回答構成比は2017年7月の4.9%を底に4回連続で増加し、4割近い水準に達している。東京圏の不動産マーケットでは2019年の供給量は過去最大となることは確実で、2020年、2021年ともに2019年に匹敵する供給量となる見込みであるが、賃料水準の楽観的な見通しがさらに勢いを増している。



図表3 物流施設の賃料水準の見直し(半年後)
図表3 物流施設の賃料水準の見通し(半年後)

出所:株式会社一五不動産情報サービス


半年後の賃料水準の見通しについて、それぞれの理由を確認する(図表4参照)。

上昇理由では「Eコマースが需要をさらに牽引するため」が20回答、「土地価格や建築費などの開発コストが上昇し、その分の賃料転嫁が進むため」が18回答、「雇用面で優位性のある高機能型物流施設に対するニーズが高まるため」が15回答で、上位3つとも前回調査より回答者が増えている。Eコマースによる堅調な需要が、楽観的な賃料見通しの第一の理由であるが、最近では開発用地の入札価格の高騰によって開発コストが上昇しやすいことも賃料水準の上昇に繋がっている。

横ばいの理由は「新規開発による供給増と物流ニーズの増加が均衡するため」が29回答、「荷主および物流会社の賃料負担力に変化がないため」が27回答、「物流業界に大きな変化がなく、安定しているため」が13回答となった。新規開発が盛んであるが需要は底堅く、需給悪化の懸念は限定的で、賃料水準にも大きな変化はないとの意見である。

下落理由としては「物流施設に対する需要が減退し、需給バランスが悪化するため」と「人件費の上昇で物流会社の利益が圧迫され、賃料の値下げ圧力が強まるため」がそれぞれ1回答である。


図表4 上昇・横ばい・下落理由
図表4 上昇・横ばい下落理由

出所:株式会社一五不動産情報サービス
注:複数回答可で設問。また、左軸上の文章は、読みやすくするため、一部省略している。文章(全文)は、PDF末尾の回答用紙を参照。


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3.業況判断DI

不動産市況のサイクルを把握することを主眼として、不動産価格と賃料水準について業況判断DIを算出した(図表5参照)。

本調査(19年7月)における不動産価格の業況判断DIは38.0ポイントで、前回調査の25.3ポイントから12.7ポイントの上昇となった。また、賃料水準の業況判断DIは37.0ポイントで、前回の18.7ポイントから大幅な上昇となり、不動産価格の業況判断DIと概ね同水準となった。

この数年間、10年国債利回りはゼロ%付近で推移し、キャップレートのさらなる低下は見込みにくいが、物流セクターでは賃料上昇による収益性の向上が不動産価格の楽観的な見通しに繋がっている。また、物流セクターでは新規の開発物件がマーケットを牽引する傾向があるが、開発用地の入札価格の高騰がディベロッパーによる高い募集賃料の設定に繋がり、賃料上昇の気運を高めている面もある。


図表5 本アンケートの業況判断DI
図表5 本アンケートの業況判断DI

出所:株式会社一五不動産情報サービス
作成方法:日銀短観の業況判断D.I.を参考に、下式にて算出。
業況判断D.I.=「上昇」の回答者構成比-「下落」の回答者構成比

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4.物流エリアとしての評価が高まりそうな地域

上述の通り、物流施設の不動産市場では楽観的な見通しが強まっているが、その見通しも物流エリアによって濃淡がある。そこで、今後の数年間で物流エリアとしての評価がさらに高まることが期待できる地域はどこかを本アンケートにて設問した(図表6参照)。


図表6 今後の数年間で物流エリアとしての評価が高まりそうな地域

図表6 今後の数年間で物流エリアとしての評価が高まりそうな地域

出所:株式会社一五不動産情報サービス


東京臨海部が56回答で最多で、次いで外環道が51回答となっている。周知の通り、東京臨海部は最も賃料が高いプライムエリアであるが、評価がさらに高まることが期待されている。また、外環道は「三郷南IC~高谷JCT」の区間が2018年6月に開通したことで交通利便性が向上したうえ、「大泉JCT~東名JCT」の整備も進んでいる。また、人口密度が高く雇用の面でも優位性を発揮しやすい地域が多い。そのため開発用地の入札では高値での落札が相次いでおり、評価が急速に高まっている。

また、神奈川内陸部が37回答、神奈川臨海部が34回答となった。神奈川県は横浜市や川崎市などの大消費地をかかえ人口増が続く地域であり、西日本からの玄関口として機能する面もあるため、そもそも物流立地として評価が高い。また、内陸部と臨海部を結ぶ圏央道「藤沢IC~釜利谷JCT」の開通が2020年度に控えていることも高い評価に繋がっていると考えられる。

その他の圏央道が通過する地域では、茨城県が12回答、埼玉県が8回答に留まった。埼玉県と茨城県の区間は圏央道が既に開通しており、さらなる立地ポテンシャルの向上が見込みづらいと判断されたようだ。なお、埼玉県より茨城県の回答者数が多かった。埼玉県の圏央道周辺は物流エリアとしての認知度が既に高いが、茨城県は新興の物流エリアとして、これからの市場拡大が期待される地域である。また、主に茨城県内を横断する圏央道の区画である「久喜白岡JCT~大栄JCT」では四車線化の工事が進められていることも影響していると考えられる。

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■アンケート調査の概要、回答用紙につきましては、PDF末尾をご参照ください。

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