第23回物流施設の不動産市況に関するアンケート調査

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【不動産価格の見通し】

半年後の不動産価格の見通しは「横ばい」が70.3%と最多で、「上昇」が27.5%、「下落」が2.2%となった。また、不動産価格の業況判断DIは25.3ポイントとなり、2016年1月の27.3ポイントから一進一退で、やや強気の見通しが3年にわたり続いている。

【賃料水準の見通し】

半年後の賃料の見通しは「横ばい」が70.3%と最多で、「上昇」が24.2%、「下落」が5.5%となった。「下落」の回答構成比は2017年1月の25.0%から4回連続で減少する一方、「上昇」の回答構成比は2017年7月の4.9%を底に増加基調で、楽観的な見通しが勢いを増している。

1.物流施設の不動産価格の見通し

物流施設の不動産市況について、半年毎のアンケート調査を実施した。

物流施設の不動産価格について半年後の見通しを設問した(図表1参照)。本調査(19年1月)では「横ばい」が70.3%と最多で、「上昇」が27.5%、「下落」が2.2%となった。2017年1月からアンケートの回答傾向に大きな変化はみられず、不動産価格に対して「上昇」と回答する強気派が4分の1強を占める一方、「下落」の回答者は依然として少数である。不動産価格の周期は動きそうで動かない状態が続いている。



図表1 物流施設の不動産価格の見通し(半年後)
図表1 物流施設の不動産価格の見通し(半年後)

出所:株式会社一五不動産情報サービス


半年後の物流施設の不動産価格の見通しについて、それぞれの理由を確認する(図表2参照)。

上昇理由では「物流施設への活発な投資が続くため」が20回答で最多となり、次いで「良好な資金調達環境が続くため」と「物流施設へ投資するプレイヤーが更に増えるため」が14回答となった。上昇理由の上位は前回から概ね同傾向で、良好な資金調達環境を背景に、物流施設へ投資するプレイヤーが増えることで活発な投資が続き、不動産価格の上昇余地があるという意見である。その他の回答では「物流施設の建築費が上昇するため」が6回答、「物流施設の賃料水準が上昇するため」が5回答、「日本経済の安定的な成長が期待できるため」が2回答である。

横ばいの理由では「キャップレートの更なる低下が見込みづらいため」が38回答で最多となった。この数年間、10年国債利回りはゼロ%付近で推移しているが、キャップレートの低下でリスクプレミアムが縮小され、そろそろ限界に近いという意見である。また、「賃料水準の見通しに大きな変化がないため」が31回答、「不動産価格が上昇局面から踊り場に移行するため」が27回答である。その他の回答では「不動産投資市場の過熱感から、投資を控えるプレイヤーが増えるため」が13回答、「日本経済の見通しが安定しているため」が6回答となっている。

下落理由は回答者が少なく「不動産価格の上昇局面が終わり、下落局面に突入するため」、「開発ラッシュによる需給悪化が見込まれるため」、「量的緩和政策の出口が意識され、金利が上昇する懸念があるため」がそれぞれ1回答であった。



図表2 上昇・横ばい・下落理由
図表2 上昇・横ばい・下落理由

出所:株式会社一五不動産情報サービス
注:複数回答可で設問。また、左軸上の文章は、読みやすくするため、一部省略している。文章(全文)は、PDF末尾の回答用紙を参照。


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2.物流施設の賃料水準の見通し

次に、物流施設の賃料水準について半年後の見通しを設問した(図表3参照)。

本調査(19年1月)では「横ばい」が70.3%と最多で、「上昇」が24.2%、「下落」が5.5%となった。「下落」の回答構成比は2017年1月の25.0%から4回連続で減少する一方、「上昇」の回答構成比は2017年7月の4.9%を底に増加している。東京圏の不動産マーケットでは2019年において過去最大の供給量が見込まれているが、賃料水準では楽観的な見通しが勢いを増している。



図表3 物流施設の賃料水準の見直し(半年後)
図表3 物流施設の賃料水準の見通し(半年後)

出所:株式会社一五不動産情報サービス


半年後の賃料水準の見通しについて、それぞれの理由を確認する(図表4参照)。

上昇理由では「ネット通販(メーカー・小売によるネット事業を含む)が、需要を牽引するため」が14回答、「土地価格や建築費などの開発コストが上昇し、その分の賃料転嫁が進むため」が12回答、「雇用面で優位性のある高機能型物流施設に対するニーズが高まるため」が10回答である。そのほか、「老朽化した保管型倉庫から、高機能な物流施設に需要がシフトするため」が7回答、「飲食料品・日用雑貨・医薬品など、幅広い業種で需要拡大が期待できるため」が6回答である。堅調な物流ニーズの背景としてEコマースや労働力不足への対応が挙げられるが、それ以外の選択肢を選ぶ回答者も多く、多様な要因が折り重なって市場関係者の楽観的な賃料水準の見通しに繋がっている。

横ばいの理由は「新規開発による供給増と物流ニーズの増加が均衡するため」と「荷主および物流会社の賃料負担力に変化がないため」がそれぞれ33回答となった。また、「物流業界に大きな変化がなく、安定しているため」が12回答「生鮮品など生活必需品の物流ニーズが底堅いため」が10回答で続いている。新規開発が盛んであるが需要は底堅く、需給環境は安定しており、賃料水準も大きな変化はないとの意見である。

下落理由としては「物流施設の大量供給で、テナントの獲得競争が激化するため」と「人件費の上昇で物流会社の利益が圧迫され、賃料の値下げ圧力が強まるため」がそれぞれ3回答である。前回調査では「物流施設の大量供給で、テナントの獲得競争が激化するため」が10回答であったことから、大量供給による賃料下落を懸念する意見が大幅に減少している。


図表4 上昇・横ばい・下落理由
図表4 上昇・横ばい下落理由

出所:株式会社一五不動産情報サービス
注:複数回答可で設問。また、左軸上の文章は、読みやすくするため、一部省略している。文章(全文)は、PDF末尾の回答用紙を参照。


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3.業況判断DI

不動産市況のサイクルを把握することを主眼として、不動産価格と賃料水準について業況判断DIを算出した(図表5参照)。

本調査(19年1月)における不動産価格の業況判断DIは25.3ポイントで、前回調査の21.0ポイントから4.3ポイント上昇した。

不動産価格の業況判断DIは2016年1月の27.3ポイントから一進一退で、やや強気の見通しが3年にわたり続いている。また、賃料水準の業況判断DIは18.7ポイントで、前回の5.0ポイントから13.7ポイントも上昇している。2019年の新規供給は過去最大となるが、図表3に示す通り、需給悪化による賃料下落を懸念する声は少ない。キャップレートのさらなる低下が見込みづらい環境下で、賃料水準が上向く機運が不動産価格に対する楽観的な見通しを支えている。


図表5 本アンケートの業況判断DI
図表5 本アンケートの業況判断DI

出所:株式会社一五不動産情報サービス
作成方法:日銀短観の業況判断D.I.を参考に、下式にて算出。
業況判断D.I.=「上昇」の回答者構成比-「下落」の回答者構成比

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4.建築費のピーク時期

2020年に東京オリンピックを控え、建築費の上昇が続いている。国土交通省発表の建設工事費デフレーターによれば、2012年第3四半期の工場・倉庫(鉄骨造)が98.9ポイントに対し、最新の2018年第3四半期は113.4ポイントになり、この6年間で14.7%も上昇している。そこで、本調査では建築費のピークがいつになるかを設問した。

今年の上半期に該当する「2019年1月~6月」が8%で、今年下半期の「2019年7月~12月」が26%、「既にピークアウト」を選択した回答者は12%と、5割近い回答者が東京オリンピック開催の2020年より前に建築費がピークを迎えると予想している。また、「2020年1月~6月」が13%、「2020年7月~12月」が8%で、合わせて2割強が東京オリンピック開催年である2020年に建築費がピークになると予想している。そのほか、東京オリンピック後も建築費の上昇が続く「2021年~」が11%である。

建築費は既に下落しているという意見である「既にピークアウト」、東京オリンピック後も建築費の上昇は続くとする「2021年~」の回答割合が概ね同水準になり、「分からない」を選択した回答者も22%に及ぶなど、市場関係者の見通しは立場によって様々で、業界内でも意見が収束していないことがうかがえる。

なお、本アンケートでは建設会社の方々が、建築費のピーク時期を後ろにする傾向がみられた。自社グループの売上に直結する項目だけに、早期に右肩下がりに陥るという見解を示しづらい側面は若干あるかもしれないが、人手不足による労務費の上昇を肌感覚で感じ取っているのではないかというのが、アンケートを集計した弊社の見解である。


図表6 建築費のピーク時期

図表6 建築費のピーク時期

出所:株式会社一五不動産情報サービス

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■アンケート調査の概要、回答用紙につきましては、PDF末尾をご参照ください。

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