第21回物流施設の不動産市況に関するアンケート調査

  • 全て
  • 市況
  • アンケート
  • 予測
  • 特集
questionnaire

【不動産価格の見通し】

半年後の不動産価格の見通しは「横ばい」が66.7%と最多で、「上昇」が29.6%、「下落」が3.7%となった。不動産価格は2016年1月より「横ばい」の見通しが支配的で、「上昇」が3割前後をキープする一方、「下落」は少数派に留まっており、この2年は目立った動きがみられない。

【賃料水準の見通し】

半年後の賃料の見通しは「横ばい」が74.1%と最多で、「下落」が14.8%、「上昇」が11.1%となった。「上昇」の回答構成比は2015年1月をピークに減少が続いていたが、本調査で反転した。前調査に続き「横ばい」の回答構成比が4分の3近くを占めるが、楽観的な意見が若干増えている。

1.物流施設の不動産価格の見通し

物流施設の不動産市況について、半年毎のアンケート調査を実施した。

物流施設の不動産価格について半年後の見通しを設問した(図表1参照)。本調査(18年1月)では「横ばい」が66.7%と最多で、「上昇」が29.6%、「下落」が3.7%となった。不動産価格の見通しは2016年1月から「横ばい」が支配的で、「上昇」が3割前後をキープする一方、「下落」は少数派に留まっており、この2年は目立った動きがみられない。



図表1 物流施設の不動産価格の見通し(半年後)
図表1 物流施設の不動産価格の見通し(半年後)

出所:株式会社一五不動産情報サービス


半年後の物流施設の不動産価格の見通しについて、それぞれの理由を確認する(図表2参照)。

上昇理由では「物流施設への活発な投資が続くため」が21回答で最多となり、次いで「良好な資金調達環境が続くため」が15回答、「物流施設へ投資するプレイヤーが更に増えるため」が12回答となった。上昇理由の上位に選ばれた回答は前調査と同様で、物流施設へ投資するプレイヤーが更に増え、活発な投資が続くことで、不動産価格の上昇余地があるという意見である。その他の回答では「日本経済の安定的な成長が期待できるため」が6回答、「建設コストが上昇するため」が5回答である。

横ばいの理由では「賃料水準の見通しに大きな変化がないため」が30回答、「不動産投資市場の過熱感から、投資を控えるプレイヤーが増えるため」が22回答、「不動産価格が上昇局面から踊り場に移行するため」が18回答となった。また「金利の見通しに大きな変化がないため」が14回答、「日本経済の見通しが安定しているため」が7回答となっている。前調査から横ばい理由はあまり変わらず、賃料は安定的で、金利の見通しにも大きな変化がないことが主な理由である。

下落理由では「開発ラッシュによる需給悪化が見込まれるため」が3回答、「不動産価格の上昇局面が終わり、下落局面に突入するため」と「量的緩和政策の出口が意識され、金利が上昇する懸念があるため」がそれぞれ1回答であった。

なお、上昇理由における「日本経済の安定した成長が期待できるため」、横ばい理由における「日本経済の見通しが安定しているため」が前回調査から大幅に増えている。安定した日本経済が不動産価格を下支えしている側面もあると考えられる。



図表2 上昇・横ばい・下落理由
図表2 上昇・横ばい・下落理由

出所:株式会社一五不動産情報サービス
注:複数回答可で設問。また、左軸上の文章は、読みやすくするため、一部省略している。文章(全文)は、PDF末尾の回答用紙を参照。


目次へ

2.物流施設の賃料水準の見通し

次に、物流施設の賃料水準について半年後の見通しを設問した(図表3参照)。

本調査(18年1月)では「横ばい」が74.1%と最多となり、「下落」が14.8%、「上昇」が11.1%となった。「上昇」の回答構成比は2015年1月の55.4%をピークに減少が続いていたが、本調査で反転した。前調査に続き「横ばい」の回答構成比が4分の3近くを占めるが、楽観的な意見も若干増えている。

なお、当アンケートでは物流立地を特定せずに「最も高い市場競争力を備える東京圏の物流施設を想定」という設問しており、首都圏の臨海部を念頭にした回答が多いと考えられる。当アンケートでは読み取れないが、今後の賃料水準の見通しは地域間格差が拡大している面もありそうだ。



図表3 物流施設の賃料水準の見直し(半年後)
図表3 物流施設の賃料水準の見通し(半年後)

出所:株式会社一五不動産情報サービス


半年後の賃料水準の見通しについて、それぞれの理由を確認する(図表4参照)。

横ばいの理由は「荷主・物流会社の賃料負担力に変化がないため」が36回答、「新規開発による供給増と物流ニーズの増加が均衡するため」が35回答となった。また「物流業界に大きな変化がなく、安定しているため」が7回答、「生鮮品など生活必需品の物流ニーズが底堅いため」が6回答、「安定した物価動向が続くため」が4回答となった。前回調査と同様に、新規開発が旺盛であるが需要は底堅く、需給環境は安定しているため、賃料水準も大きな変化はないという回答結果である。

上昇理由では回答傾向が幅広く分布しているが、上位三つは「ネット通販(メーカー・小売によるネット事業を含む)が、需要を牽引するため」が6回答、「労働力不足を背景に、雇用面で優位性のある物流施設に対するニーズが高まるため」が5回答、「土地価格や建築費などの開発コストが上昇し、その分の賃料転嫁が進むため」が4回答となっている。ネット通販による堅調なニーズに加え、労働力不足など事業環境の変化に対応しやすい高機能型物流施設がニーズの受け皿となり、市場関係者の楽観的な賃料水準の見通しに繋がっている。

下落理由としては「物流施設の大量供給で、テナントの獲得競争が激化するため」が11回答と最多であった。大量供給によって需給緩和が進み、賃料水準が下落するという意見である。また「高機能な物流施設の大量供給で、大型物件の希少性が薄れるため」、「人件費の上昇で物流会社の利益が圧迫され、賃料の値下げ圧力が強まるため」、「圏央道以北など賃料が割安な地域への移転が増えるため」がそれぞれ4回答となっている。


図表4 上昇・横ばい・下落理由
図表4 上昇・横ばい下落理由

出所:株式会社一五不動産情報サービス
注:複数回答可で設問。また、左軸上の文章は、読みやすくするため、一部省略している。文章(全文)は、PDF末尾の回答用紙を参照。


目次へ

3.業況判断DI

不動産市況のサイクルを把握することを主眼として、不動産価格と賃料水準について業況判断DIを算出した(図表5参照)。

本調査(18年1月)における不動産価格の業況判断DIは25.9ポイントで、前回調査の23.1ポイントから微増となった。他方、賃料水準の業況判断DIはマイナス3.7ポイントで、依然としてマイナス圏にあるものの、改善傾向がみられる。

不動産価格の業況判断DIは2016年1月に27.3ポイントを示した後、概ね横ばいで推移する一方、賃料水準の業況判断DIでは、大量供給による需給悪化への懸念から市場関係者のマインドは後退し、マイナス圏に突入したものの、直近では反転の兆しがみられる。一般的に物流施設の賃料水準は安定的といわれているが、市場関係者による賃料見通しは揺れ動きやすくなっている。


図表5 本アンケートの業況判断DI
図表5 本アンケートの業況判断DI

出所:株式会社一五不動産情報サービス
作成方法:日銀短観の業況判断D.I.を参考に、下式にて算出。
業況判断D.I.=「上昇」の回答者構成比-「下落」の回答者構成比

目次へ

4.三年後(2021年)の関西臨海部における物流不動産市況の見通し

関西臨海部では、物流施設の大量供給で足元の不動産市況は停滞している。他方、大阪府・大阪市が誘致を目指す2025年万博の会場予定地はコンテナターミナルを有する夢洲地区で、万博誘致の成否は不動産マーケットにも多大な影響を与える。そこで、本アンケートにおいて、三年後(2021年)の関西臨海部における物流不動産市況の見通しについて、大阪万博の誘致の成否を絡めつつ、選択肢を六つ(過熱・良好・やや良好・やや停滞・停滞・不況)用意したうえで設問した。

図表6では各選択肢の回答者数を棒グラフで示している。「やや停滞」が30回答で最多となり、「やや良好」が19回答で次いでいる。また、「停滞」が11回答、「良好」が8回答となり、青色で示した悲観的な意見が、赤色の楽観的な意見をやや上回っている。他方、「過熱」や「不況」など両極端の意見はあまりなく、「その他」でも“三年先は分からない”という率直な回答が多かった。一般的に物流施設は開発期間が短いため、3年先の不動産マーケットを予想することは難しく、そのことも回答結果に影響を与えたと考えられる。


図表6 三年後(2021年)の関西臨海部における物流不動産市況の見通し

図表6 三年後(2021年)の関西臨海部における物流不動産市況の見通し

出所:株式会社一五不動産情報サービス

図表7では、図表6の回答結果を万博誘致と市況見通しで四象限に分けて再集計し、それぞれの割合を算出した。まず、万博誘致の成功を予想する回答者は55%で、失敗は45%であった(青字)。万博誘致に関する回答には、成功への期待が若干加味されていると思われ、市場関係者による誘致の成否予想は半々といったところである。次に、3年後(2021年)の不動産市況の見通しとしては、楽観派が40%、悲観派が60%である(赤字)。また、仮に万博誘致に失敗しても、物流ニーズは底堅く安定した不動産市況を見込む回答者は27%もいる(緑色)。現下の関西臨海部では、好材料が見出しにくく悲観論に染まりやすいが、阪神港(大阪港、神戸港ほか)を擁し道路インフラも整った国内有数の物流集積地で、大消費地にも近い物流適地であることは間違いない。少し長い目で見れば、少なくない市場関係者が楽観的な見通しを有しており、過度な悲観論には留意すべきであると考えられる。


図表7 万博誘致と市況見通し別の回答者割合

図表 7 万博誘致と市況見通し別の回答者割合

出所:株式会社一五不動産情報サービス 図表6を再集計して作成
 
注:その他の回答者を除いたうえで、各カテゴリーの回答者割合を算出した。

目次へ

■アンケート調査の概要、回答用紙につきましては、PDF末尾をご参照ください。

レポートをPDFでダウンロード