物流施設の賃貸マーケットに関する調査(2016年4月時点)

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【東京圏】

今期(16年4月)の空室率は4.6%となり、前期の5.0%から0.4ポイント低下した。今期は13棟が竣工したほか既存施設の増築等もあって新規供給は73.0万㎡と2四半期連続で過去最大を更新した。また、新規需要も堅調で新規供給を若干上回る74.2万㎡となり需給改善に繋がった。
東京圏の募集賃料は4,000円/坪で、前期の3,920円/坪から80円/坪(プラス2.0%)の上昇となった。2014年7月以降は概ね4,000円/坪前後で推移し、大きな変化はみられない。

【関西圏】

今期(16年4月)の空室率は1.4%となり、前期から横ばいであった。新規供給、新規需要とも4.3万㎡で、安定的な需給動向であった。
関西圏の募集賃料は3,390円/坪となり、前期の3,430円/坪から40円/坪(マイナス1.2%)の下落で、2015年7月の3,560円/坪をピークに3四半期連続のマイナスである。

東京圏の賃貸マーケット動向

(1)需給動向

2016年4月の東京圏の空室率は4.6%となり、前期(16年1月)の5.0%から0.4ポイント低下した(図表1参照)。今期(16年2月~4月)は13棟が新たに竣工したほか既存施設の増築等もあって、新規供給は73.0万㎡と2四半期連続で過去最大を更新した。また、新規需要も堅調で新規供給を若干上回る74.2万㎡となり需給改善に繋がった(図表2参照)。東京圏では旺盛な新規開発によって需要の喚起が相次いでいる。

具体的にみると、野村不動産による「Landport柏沼南Ⅰ」と「Landport柏沼南Ⅱ」が竣工した。また、三菱商事都市開発は川崎市高津区でマルチテナント型物流施設の「MCUD川崎Ⅰ」を竣工(*1)、ラサール不動産投資顧問は、日本トータルテレマーケティング専用物流施設である「狭山日高フルフィルメントセンター」が竣工したことを発表し(*2)、レッドウッド・グループもダイワコーポレーションが入居する「レッドウッド千葉北ディストリビューションセンター」、アサヒロジが入居する「レッドウッド川越ディストリビューションセンターB棟」、交渉中の「同A棟」の計3棟が新規稼働したことを発表した(*3)。そのほか、プロロジスは「プロロジスパーク習志野5」の竣工式を挙行(*4)、グッドマンジャパンは千葉ニュータウンにおいて「グッドマンビジネスパーク」のステージ1を竣工(*5)、オリックスは「守谷ロジスティクスセンター」の竣工(*6)したことをそれぞれ発表した。新規稼働したマルチテナント型物流施設はリーシングが概ね順調で、安定した賃貸市況となった。

20160530_市況_図表1 東京圏の空室率の動向

20160530_市況_図表2 東京圏の需給バランスの動向

出所:株式会社一五不動産情報サービス

1.2016年2月25日付 三菱商事都市開発(株) プレスリリースより
2.2016年2月26日付 ラサール不動産投資顧問(株) プレスリリースより
3.2016年3月28日付 レッドウッド・グループ プレスリリースより
4.2016年4月5日付 プロロジス プレスリリースより
5.2016年4月6日付 グッドマンジャパン(株) プレスリリースより
6.2016年5月2日付 オリックス(株) プレスリリースより


(2)賃料動向

2016年4月の東京圏の募集賃料は4,000円/坪で、前期の3,920円/坪から80円/坪(プラス2.0%)の上昇となった。東京圏では2013年1月の3,800円/坪を底に募集賃料の改善が続き、2014年7月以降は概ね4,000円/坪前後で推移している。
上述の通り、東京圏では高機能型物流施設に対する引き合いが堅調で、好立地の開発物件では強気の募集賃料を検討する動きがみられる。他方、5月27日発表の消費者物価指数は2か月連続でマイナスとなり(*7)、物価動向はデフレに回帰する懸念もある。商品の保管庫として機能する物流倉庫は、物価動向の影響を受けやすく、東京圏全体の募集賃料は上値が重い展開が続きそうだ。

20160530_市況_図表3 東京圏の募集賃料の動向

出所:株式会社一五不動産情報サービス
注:Nはサンプル数を示す。点線は各期の賃料サンプルのうち、上位10%と下位10%を結んだもので、賃料サンプルのバラつき具合を示す。

7.2016年5月27日発表 消費者物価指数(総務省)より。4月の全国消費物価指数は、生鮮食品を除く総合指数の前年同月比でマイナス0.3%。3月のマイナス0.3%に続き、2月連続のマイナス。

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関西圏の賃貸マーケット動向

(1)需給動向

2016年4月の関西圏の空室率は1.4%となり、前期から横ばいであった(図表4参照)。今期(16年2月~4月)は新規供給、新規需要とも4.3万㎡で安定的な需給動向であった(図表5参照)。

具体的にみると、「京阪淀ロジスティクスヤード」が2016年4月に全面開業し、A棟につばめ急便、B・C棟に日本通運がテナントとして入居した(*8)。そのほかにもテナントの動きは若干あったが、概ね安定した賃貸市況であった。
今後の新規開発では三井不動産による「MFLP茨木」(*9)、野村不動産による「Landport高槻」(*10)、ラサール不動産投資顧問、NIPPOなど3社が共同開発する「ロジポート堺西」(*11)が相次ぎ発表された。「MFLP茨木」は延床面積24万㎡超で、関西圏の新築物件では最大規模となる。また、「ロジポート堺西」は約15.5万㎡の敷地に、マルチテナント型とBTS型を開発するプランで、過去に例をみない規模である。そのほか、5月11日付の日本経済新聞によればパナソニックの尼崎第1、第2工場はレッドウッド・グループに売却される見通しである。周知のとおり、隣接する第3工場は「CPD尼崎物流センター」として改修工事が進められている。関西圏では2016年下半期以降に大量供給が待ち受けている。


20160530_市況_図表4 関西圏の空室率の動向

20160530_市況_図表5 関西圏の需給バランスの動向

出所:株式会社一五不動産情報サービス

8.2016年3月14日付 京阪電気鉄道(株) プレスリリースより
9.2016年3月24日付 三井不動産(株) プレスリリースより
10.2016年4月7日付 野村不動産(株) プレスリリースより
11.2016年5月11日付 ラサール不動産投資顧問(株)、(株)NIPPO プレスリリースより


(2)賃料動向

2016年4月の関西圏の募集賃料は3,390円/坪で、前期の3,430円/坪から40円/坪(マイナス1.2%)の下落となった。関西圏の募集賃料は2013年4月の3,150円/坪を底に2年以上にわたり上昇基調が続き、2015年7月の3,560円/坪に達した。物流施設の募集賃料としては、急速な上昇スピードであったことから、その反動もあって下落が続いていると弊社では判断している。
周知のとおり、2016年下半期より大量供給が本格化する。東京圏と同様に、物件の市場競争力の格差によって賃料水準の二極化が進むことが予想される。

20160530_市況_図表6 関西圏の募集賃料の動向

出所:株式会社一五不動産情報サービス
注:Nはサンプル数を示す。点線は各期の賃料サンプルのうち、上位10%と下位10%を結んだもので、賃料サンプルのバラつき具合を示す。

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トピックス ~堅調な需要について~

上述のとおり、東京圏では大型物流施設に対する需要が堅調で、今期は過去最大の新規需要となった。弊社では堅調な需要の要因として①既存施設の老朽化と建替え、②大型物件へのシフト、③賃貸物件の浸透、④ネット通販の市場拡大等を従前より挙げている。①既存施設の老朽化と建替えは、5年ほど前の調査レポート(*12)で詳述し、その後も見解は不変である。②大型物件へのシフトや④ネット通販は、各機関からのレポートも多く、議論の余地も少ないだろう。そこで、本トピックスでは「③賃貸物件の浸透」に焦点を当ててみたい。


法人企業統計

物流会社がテナントとして支払う不動産賃借料について、法人企業統計(財務省)を用いてこの10年の傾向を把握する。なお、法人企業統計における調査項目は、「動産・不動産賃借料」で不動産以外も含まれているが、不動産賃借料が主であることから、「動産・不動産賃借料」で分析する。
図表7は資本金10億円以上の企業を対象に、売上高(青棒)と動産・不動産賃借料(赤棒)の10年間の変化を示しており、上図は陸運とその他の運輸業の合算(*13)、下図は全業種(金融保険業除く)である。「陸運+その他の運輸業」の売上高は、この10年間で7.5%増となり、全産業の4.8%を上回る。資本金10億円以上の大企業に限れば、「陸運+その他の運輸業」は全業種を上回る売上高の拡大であった。また、「陸運+その他の運輸業」の動産・不動産賃借料はこの10年で25.5%増となり、堅調な売上高の拡大を更に上回る(*14)。大手物流会社は事業拡大に不動産賃借を積極的に活用していたことがうかがえる。



出所:株式会社一五不動産情報サービス


主要な物流企業に関して

もう少し分かりやすくするため、具体的な企業でも賃借料の傾向を把握してみたい。当賃貸市場の代表的なテナントである株式会社日立物流とセンコー株式会社を取り上げる。

図表8は日立物流の売上高と賃借料の10年間の変化を示している。周知の通り、日立物流は3PL事業(システム物流)のリーディングカンパニーで、M&Aやグローバル展開にも積極的である。本トピックスは日本国内の不動産市場を対象としていることから、連結ではなく単体の決算データを活用する 。
日立物流(単体)の売上高(青棒)は、この10年でプラス0.9%と微増に留まるが、売上原価における賃借料は2004年の100億円から2014年の183億円まで83.6%増と急拡大である 。賃借料の内訳は未発表で、車両等の不動産以外も含まれると考えられるが、その大半を不動産が占めていると考えても差し支えはないであろう。



出所:株式会社一五不動産情報サービス
注1:2004年度は第46期(自2004年4月1日至2005年3月31日)、2014年度は第56期(自2014年4月1日至2015年3月31日)の決算データである。
注2:売上原価として計上された賃借料を対象とする(販売費及び一般管理費は対象外)。

同様に、センコーでも単体ベースで営業収益(売上高)と賃借料の10年間の変化を算出した(図表9参照)。センコーの営業収益(青棒)はこの10年で24.5%増に対し、営業原価における賃借料は47.5%増であった(*17)。センコーにおいても賃借料の伸びが営業収益のそれを大きく上回る。また、センコーは自ら私募リートを設立して資産のオフバランス化を進めており、賃貸物件の活用を強力に推し進める代表的な企業となっている。


20160530_市況_図表9 センコー(単体)の営業収益と賃借料の変化
出所:株式会社一五不動産情報サービス
注1:2004年度は第88期(自2004年4月1日至2005年3月31日)、2014年度は第98期(自2014年4月1日至2015年3月31日)の決算データである。
注2:営業原価として計上された賃借料を対象とする(販売費及び一般管理費は対象外)。


大型物流施設の賃貸市場は、市場拡大が始まってから十余年が経過したが、大手物流企業が賃借料を大幅に増やしていることが決算データから確認でき、物流分野でも賃貸物件が徐々に浸透していることがうかがえた。また、不動産は長期間にわたり利用する資産の代表格であるが、賃貸物件を有力な候補として俎上に載せるようになってから日が浅く、まだ一巡したとはいえない。既存の物流拠点を見直す過程で、新たな賃貸ニーズが創出されることは今後も十分に考えられるだろう。

12.当該レポートへのリンク
13.「陸運」は鉄道業・道路旅客運送業・道路貨物運送業、「その他の運輸業」は航空運輸業・倉庫業・運輸に付帯するサービス業・郵便業で構成される。
14.参考までに、土地の保有額はこの10年間で11.2%増である。
15.単体ベースにも国際物流事業は若干含まれる。
16.参考までに、貸借対照表上の土地および建物の計上額はこの10年間で10.3%増である。
17.参考までに、貸借対照表上の土地および建物の計上額はこの10年間で7.0%増である。

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