第17回物流施設の不動産市況に関するアンケート調査

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【不動産価格の見通し】

「上昇」が34.2%、「横ばい」が58.9%、「下落」が6.9%となった。「上昇」の構成比が減少する一方、「横ばい」が大幅に増加した。市場関係者による不動産価格の見通しは後退色が強まっている。

【賃料水準の見通し】

「上昇」が30.1%、「横ばい」が58.9%、「下落」が11.0%となった。「上昇」の構成比は、2014年1月から2015年7月まで過半数を維持していたが、2年半ぶりに3割台に縮小した。

1.物流施設の不動産価格の見通し

物流施設の不動産市況について、半年毎のアンケート調査を実施した。なお、本アンケートは1月22日から2月1日に至る期間に実施し、約9割の回答者が1月28日までに回答した。1月29日に日本銀行より発表された「マイナス金利付量的・質的金融緩和の導入」によって、不動産価格に関する見通しが変化したと考えられるが、本レポートでは上記期間に実施したアンケートの回答結果に則り作成する。

物流施設の不動産価格について半年後の見通しを設問した(図表1参照)。本調査(16年1月)では「上昇」が34.2%となり、前回調査の67.9%から大幅に下落する一方、「横ばい」が58.9%となり、前回調査の31.0%から上昇している。また、「下落」も前回調査の1.1%から本調査では6.9%へ上昇している。不動産価格の見通しは2012年7月に「上昇」が69.2%で3分の2を上回り、約3年間にわたり強気の見通しが支配していたが、本調査で後退色が強まった。



図表1 物流施設の不動産価格の見通し(半年後)
図表1 物流施設の不動産価格の見通し(半年後)

出所:株式会社一五不動産情報サービス
注:Nは回答者数(サンプル数)を示す。


半年後の物流施設の不動産価格の見通しについて、それぞれの理由を確認する(図表2参照)。

上昇理由では「物流施設への活発な投資が続くため」が18回答で最多で、「物流施設の賃料水準が上昇するため」が11回答、「資金調達環境が良好なため」が10回答、「建設コストが上昇するため」と「投資対象となる高機能型物流施設の絶対数が少ないため」がそれぞれ6回答となっている。建設コストの上昇分を賃料に転嫁したうえで高機能物流施設を次々と開発し、資金調達環境も良好であることから、活発な投資が続くという意見である。

横ばいの理由では「不動産価格が上昇局面から踊り場にさしかかるため」が25回答で最も多く、「賃料水準の見通しに大きな変化がないため」が19回答、「不動産投資市場の過熱感から、投資を控えるプレイヤーが増えるため」が12回答となった。不動産価格の上昇期間が長期にわたり、局面の移行を予想する意見が急速に増えている。

下落理由では「開発ラッシュによる需給悪化が懸念されるため」が4回答で最多となった。東京圏や関西圏では新規開発計画が目白押しで、需給緩和による収益悪化により不動産価格が低迷する意見である。そのほか「不透明な世界経済の影響で、不動産投資市場から資金が流出するため」が3回答となり、リスクマネーの縮小が不動産価格の下落に繋がることが懸念されている。



図表2 上昇・横ばい・下落理由
図表2 上昇・横ばい・下落理由

出所:株式会社一五不動産情報サービス
注:複数回答可で設問。また、左軸上の文章は、読みやすくするため、一部省略している。文章(全文)は、PDF末尾の回答用紙を参照。


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2.物流施設の賃料水準の見通し

次に、物流施設の賃料水準について半年後の見通しを設問した(図表3参照)。

本調査(16年1月)では「上昇」が30.1%となり、前回調査の51.2%から下落する一方、「横ばい」が58.9%となり、前回調査の46.4%から上昇している。「上昇」の構成比は、2014年1月から2015年7月まで過半数を維持していたが、本調査で2年半ぶりに約3割に縮小した。また「下落」も11.0%となり前回調査の2.4%から大幅増である。「下落」の見通しが10%を上回るのは2010年1月以来の6年ぶりとなる。



図表3 物流施設の賃料水準の見直し(半年後)
図表3 物流施設の賃料水準の見通し(半年後)

出所:株式会社一五不動産情報サービス
注:Nは回答者数(サンプル数)を示す。


半年後の賃料水準の見通しについて、それぞれの理由を確認する(図表4参照)。

上昇理由では「高機能な大型物流施設の絶対数が少なく、堅調な需要が期待できるため」が15回答で最多となり、「ネット通販(メーカー・小売によるネット事業を含む)が、需要を牽引するため」と「土地価格や建設費などの開発コストが上昇し、その分の賃料転嫁が進むため」がそれぞれ13回答、「老朽化した保管型倉庫から、高機能な物流施設に需要がシフトするため」が10回答となっている。高機能型物流施設の積極的な開発が、堅調な需要を生み出しているという意見が主流である。そのほかでは、「飲食料品・日用雑貨・医薬品など、幅広い業種で需要拡大が期待できるため」が8回答で、「原油安で物流会社の利益水準が改善し、賃料負担力が増すため」は3回答と少ない。今後の原油価格の見通しは不透明で、一時的に事業会社の収益改善に寄与しても、賃料の上昇要因にはなりにくいという意見である。

横ばいの理由は「荷主・物流会社の賃料負担力に変化がないため」が25回答で最多となり、「新規開発による供給増と物流ニーズの増加が均衡するため」が19回答、「物流業界に大きな変化がなく、安定しているため」が8回答、「安定した物価動向が続くため」が4回答、「生鮮品など生活必需品の物流ニーズが底堅いため」が3回答であった。前回調査と回答傾向は類似しており、物流セクターの特徴のひとつである安定性に加え、物流施設の需給バランスが均衡していることが横ばいの主な理由となっている。

下落の理由としては「物流施設の大量供給で、テナントの獲得競争が激化するため」が8回答、「高機能な物流施設の大量供給で、大型物件の希少性が薄れるため」が7回答となっている。急増する開発計画によって供給過多に陥り、賃料の下落に繋がるという意見である。そのほか「圏央道以北など賃料が割安な地域への移転が増えるため」と「マクロ経済が悪化し、物流施設への需要が減退するため」がそれぞれ1回答であった。


図表4 上昇・横ばい下落理由
図表4 上昇・横ばい下落理由

出所:株式会社一五不動産情報サービス
注:複数回答可で設問。また、左軸上の文章は、読みやすくするため、一部省略している。文章(全文)は、PDF末尾の回答用紙を参照。


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3.業況判断DI

不動産市況のサイクルのうち、本調査時点がどの段階にあるかを認識することを主眼として、日銀短観のように、不動産価格と賃料水準について業況判断DIを算出した(図表5参照)。

本調査(16年1月)における不動産価格の業況判断DIは27.3ポイントで、15年7月の前回調査の66.8ポイントから大幅に下落し、5年前の2011年1月(29.7ポイント)と概ね同水準にまで落ち込んでいる。また、賃料水準の業況判断DIも19.2ポイントとなり、前回調査の48.8ポイントから下落している。不動産価格、賃料水準とも業況判断DIの下落は2回連続となり、市場関係者のマインドが後退している。

なお、本アンケートは1月22日から2月1日に至る期間に実施し、アンケートの回答期限間近の1月29日に日本銀行よりマイナス金利政策が発表された。発表後の株式市場をみるとマイナス金利政策は不動産分野に追い風となっており、2016年1月28日から2月26日に至る期間において、日経平均株価はマイナス5.0%、TOPIXはマイナス5.8%と低迷する一方、東証REIT指数はプラス11.9%と堅調である。REITと実物不動産の価格は必ずしも連動するものではないが、長期金利が低下している資金調達環境を考慮すると、物流施設の不動産価格の見通しもやや好転していると考える方が自然であろう。


図表5 本アンケートの業況判断DI
図表5 本アンケートの業況判断DI

出所:株式会社一五不動産情報サービス
作成方法:日銀短観の業況判断D.I.を参考に、下式にて算出。
業況判断D.I.=「上昇」の回答者構成比-「下落」の回答者構成比

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4.物流現場に影響を及ぼしそうな技術革新

2月26日発表の国勢調査(速報値)によれば、平成27年10月1日現在の総人口は1億2711万人で、前回調査(平成22年)から94万7千人が減少し、大正9年の調査開始以来で初めての人口減少となった。物流現場では労働力の確保が喫緊の課題で、その難度が物流施設の選定にも影響を与えている。当面は労働条件の改善や就労環境の整備で労働力の確保を進めるしかないが、これから人口減少が本格化することを踏まえると、(移民政策を取らない限り)人を集めるための処方箋は対処療法にすぎず、物流現場には省力化を進める技術革新が必須であろう。そこで、本アンケートでは「2020年までに物流現場に影響を及ぼしそうな技術革新」について設問した(図表6参照)。

「IoT(Internet of Things)」が41回答で最多で、「倉庫内のロボット」が37回答で続いている。IoTとはモノに通信機能を持たせインターネットに接続(または相互通信)することで、業務効率の改善や革新に繋げる技術である。物流業界では以前よりICタグ/RFIDなどの技術導入が進められてきた経緯もあって、本アンケートでも最も多い回答である。また、上位二つは庫内作業を省力化(効率化)するためのツールであり、まずは倉庫空間における技術革新が期待されているようだ。

次いで「ドローン(小型無人航空機)」が26回答、「自動車の自動運転」が16回答と続いており、両回答とも輸送分野での技術革新に相当する。輸送分野は典型的な労働集約型産業であり、逼迫する雇用情勢を背景に、正社員化を含めた就労環境の改善を進める企業が多い。その一方、輸送分野の技術革新は、ドライバーが不要になるなど抜本的な省力化に繋がる事態も予想され、事業会社(運送会社)の労務対策は短期と中長期のバランスが悩ましく、経営の舵取りが非常に難しい時代に突入している。

そのほかでは「人口知能(AI)」が10回答、「フィンテック」が4回答となっている。また「2020年の段階では目立った影響はない」は8回答で約1割に留まり、大半の回答者は何らかの技術革新に期待を寄せている様子がうかがえた。


図表6 2020年までに物流現場に影響を及ぼしそうな技術革新
図表6 2020年までに物流現場に影響を及ぼしそうな技術革新

出所:株式会社一五不動産情報サービス
注:複数回答可で設問。 IoT(Internet of Things)はICタグ/RFIDを含む。

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■アンケート調査の概要、回答用紙につきましては、PDF末尾をご参照ください。

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