第28回物流施設の不動産市況に関するアンケート調査

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【不動産価格の見通し】
半年後の不動産価格の見通しは「上昇」が67.9%、「横ばい」が30.9%、「下落」が1.2%となった。前回調査から大勢に大きな変化はなく、不動産価格は依然として強気の見通しが支配的である。

【賃料水準の見通し】
半年後の賃料の見通しは「上昇」が51.9%、「横ばい」が46.9%、「下落」が1.2%となった。「上昇」の回答構成比が前回調査(21年1月)から若干減少したものの、過半数の回答者が賃料の見通しに依然として強気である。

1. 物流施設の不動産価格の見通し

物流施設の不動産市況について、半年毎のアンケート調査を実施した。アンケート回答者の属性など調査の詳細はPDFを参照のこと。

物流施設の不動産価格について半年後の見通しを設問した(図表1参照)。本調査(21年7月)では「上昇」が67.9%と最多で、「横ばい」が30.9%、「下落」が1.2%となった。「横ばい」の回答構成比が前回調査から若干増加する一方、「上昇」の回答構成比がやや減少したが、大勢に大きな変化はなく、不動産価格は依然として強気の見通しが支配的である。



図表1 物流施設の不動産価格の見通し(半年後)
図表1 物流施設の不動産価格の見通し(半年後)

出所:株式会社一五不動産情報サービス


半年後の物流施設の不動産価格の見通しについて、それぞれの理由を確認する(図表2参照)。

上昇理由では「コロナ禍で物流施設へ投資するプレイヤーが増え、物件獲得競争が激化するため」が42回答で最多で、「コロナ禍で物流施設への注目が続き、今後も活発な投資が続くため」が35回答で次いでいる。コロナ禍が収束しない事業環境下で物流施設への注目が持続し、新規参入したプレイヤーを含めた物件獲得競争によって、不動産価格がさらに上昇するとの意見である。そのほかでは「良好な資金調達環境が続くため」が29回答、「物流施設の賃料水準が上昇するため」が14回答、「資産インフラへの期待感から不動産への資金流入が続くため」が10回答、「物流施設の建築費が上昇するため」が6回答となっている。

横ばいの理由では「賃料水準の見通しに大きな変化がないため」が14回答、「キャップレートの更なる低下が見込みづらいため」が13回答となっている。物流施設の収益性に目立った変化がなく、キャップレートもあまり変わらないことから、安定した不動産価格が続くという意見である。

下落の理由では「不動産価格が急騰しており、一時的な調整が見込まれるため」と「コロナ禍が収束せず、先行きの不透明感からリスクマネーが縮小するため」がそれぞれ1回答であった。



図表2 上昇・横ばい・下落理由
図表2 上昇・横ばい・下落理由

出所:株式会社一五不動産情報サービス
注:複数回答可で設問。また、左軸上の文章は、読みやすくするため、一部省略している。文章(全文)は、PDF末尾の回答用紙を参照。


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2. 物流施設の賃料水準の見通し

次に、物流施設の賃料水準について半年後の見通しを設問した(図表3参照)。

本調査(21年7月)では「上昇」が51.9%で最多となり、「横ばい」が46.9%、「下落」が1.2%となった。「上昇」の回答構成比が前回調査(21年1月)から若干減少したものの、過半数の回答者が賃料の見通しに依然として強気である。



図表3 物流施設の賃料水準の見直し(半年後)
図表3 物流施設の賃料水準の見通し(半年後)

出所:株式会社一五不動産情報サービス


半年後の賃料水準の見通しについて、それぞれの理由を確認する(図表4参照)。

上昇理由では「土地価格や建築費などの開発コストが上昇し、その分の賃料転嫁が進むため」が25回答で最多で、前回調査の17回答から増えている。一部の入札案件で価格が急騰しており、開発コストの上昇が賃料上昇につながるという意見である。また、「コロナ禍でEコマースの需要がさらに拡大するため」は23回答であるが、前回調査の39回答から大幅に減少している。Eコマースの拡大が賃料上昇に繋がるという意見は前回調査の時点と比較すると若干弱まっている。そのほか、「飲食料品・日用雑貨・医薬品など、幅広い業種で堅調な需要が期待できるため」が21回答、「老朽化した保管型倉庫から、高機能な物流施設に需要がシフトするため」と「労働力不足で雇用面で優位性のある物流施設に対するニーズが高まるため」がそれぞれ10回答、「コロナ収束後のリバウンド消費で、物流施設への需要が拡大するため」が7回答となっている。

横ばいの理由では「新規開発による供給増と物流ニーズの増加が均衡するため」が19回答で最多で、「コロナ禍で加速した賃料上昇に、上げ止まりの兆しがみられるため」が14回答で前回調査の7回答から倍増している。コロナ禍での物流施設への追い風は一段落し、賃料動向も落ち着きを取り戻すという意見である。そのほか「景気悪化による収益性の低下と需給ひっ迫による賃料上昇圧力が均衡するため」が7回答、「コロナ禍でのEコマース拡大のプラス面と景気悪化のマイナス面が均衡するため」が6回答、「コロナ禍が収束し、Eコマースからの需要が落ち着くため」が4回答となった。

下落の理由では「物流施設の大量供給で、テナントの獲得競争が激化するため」、「高機能な物流施設の大量供給で、大型物件の優位性が薄れるため」および「コロナ禍で荷主・物流会社の業績が低迷し、賃料の値下げ圧力が強まるため」がそれぞれ1回答である。


図表4 上昇・横ばい・下落理由
図表4 上昇・横ばい下落理由

出所:株式会社一五不動産情報サービス
注:複数回答可で設問。また、左軸上の文章は、読みやすくするため、一部省略している。文章(全文)は、PDF末尾の回答用紙を参照。


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3. 業況判断DI

不動産市況のサイクルを把握することを主眼として、不動産価格と賃料水準について業況判断DIを算出した(図表5参照)。

本調査(21年7月)における不動産価格の業況判断DIは66.7ポイントで、前回調査の67.5ポイントから概ね横ばいとなった。また、賃料水準の業況判断DIは50.7ポイントで、前回調査の56.3ポイントからやや下落した。

本調査(21年7月)における賃料水準の業況判断DIは、2014年1月から2015年7月に到る期間と概ね同水準である。2013年は超大型の物流施設が相次ぎ竣工し、大量供給による需給悪化が懸念されたが、竣工後のリースアップが順調に進んだことで、2014年以降の賃貸市況は楽観的な見通しが支配的となった。2021年から2022年にかけて、東京圏では大量供給が見込まれるが、超大型物件のプレリーシングは順調で、需給悪化を懸念する意見がほとんどなく、最近の賃料水準の業況判断DIの高さに繋がっている。


図表5 本アンケートの業況判断DI
図表5 本アンケートの業況判断DI

出所:株式会社一五不動産情報サービス

作成方法:日銀短観の業況判断D.I.を参考に、下式にて算出。

業況判断D.I.=「上昇」の回答者構成比-「下落」の回答者構成比

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4. ポストコロナにおけるEコマースの成長率


コロナ禍の巣ごもり消費でEコマースは急成長した。経済産業省発表の国内電子商取引の市場規模(物販系分野)は、2020年が12兆2,333億円で、前年の10兆515億円から21.71%の成長率であった。コロナ前の5年間(2014年~2019年)の年平均成長率は8.12%で、すでに高い成長率であったが、コロナ禍では成長スピードがさらに加速した。上述の通り、物流施設の不動産価格および賃料水準とも強気の見通しが支配的で、その大きな要因としてEコマースが影響していることは間違いない。そこで、本アンケートではポストコロナにおけるEコマースの成長率について設問した(図表6参照)。

「コロナ以前の水準に回帰する(年率で5~15%)」が52%で最多で、「コロナ禍の高い成長が持続する(年率で15~25%)」が25%、「成熟期を迎え成長が大幅に鈍化する(年率で5%未満)」が10%、「コロナ禍を上回る成長スピードとなる(年率で25%超)」が1%となった。この感染症が収束した後のEコマースの成長率は、コロナ以前の水準に回帰するという意見が過半数を占めている。

ワクチン接種が進む米国ではEコマースの成長が鈍化している。米アマゾンが発表した最新の決算をみると、北米の売上高(2021年4~6月期)は675億5千万ドルで、前年同月比では21%増となった。コロナ禍の真っ只中にあった1年前の2020年 4~6月期は44%増で、その後も3四半期連続でプラス40%前後 と驚異的な成長率であったが、直近の成長率はコロナ以前の水準 に回帰している。ワクチン接種が進み、日常生活を取り戻す過程で日本のEコマースの成長率も、コロナ以前の水準に回帰する可能性が高いと考えられる。


図表6 ポストコロナにおけるEコマースの成長率

図表6 ポストコロナにおけるEコマースの成長率

出所:株式会社一五不動産情報サービス

注:複数回答可で設問。また、エリア名称は見やすくするため一部を省略している。エリア名称(全文)は本レポート末尾の回答用紙を参照。

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■アンケート調査の概要、回答用紙につきましては、PDF末尾をご参照ください。

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