第19回物流施設の不動産市況に関するアンケート調査

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【不動産価格の見通し】

半年後の不動産価格の見通しは「横ばい」が67.8%と最多で、「上昇」が27.4%、「下落」が4.8%となった。前回調査に比べ「上昇」の構成比が減少する一方、「下落」は僅かに増えている。また、不動産価格の業況判断DIは22.6ポイントで、前回調査の28.7ポイントから6.1ポイント下落したものの、依然としてプラス圏を維持している。

【賃料水準の見通し】

半年後の賃料の見通しは「横ばい」が63.1%と最多で、「下落」が25.0%、「上昇」が11.9%となった。「上昇」の構成比は2年にわたり減少する一方、「下落」の構成比は2014年7月の回答者ゼロから徐々に増加し、本調査では4分の1を占めている。また、賃料水準の業況判断DIはマイナス13.1ポイントで、マイナス幅が更に拡大している。

1.物流施設の不動産価格の見通し

物流施設の不動産市況について、半年毎のアンケート調査を実施した。

物流施設の不動産価格について半年後の見通しを設問した(図表1参照)。本調査(17年1月)では「横ばい」が67.8%で最多となり、「上昇」が27.4%、「下落」が4.8%となった。前回調査と同様に「横ばい」の見通しが支配的であるが、「上昇」の構成比が更に減少する一方、「下落」は僅かに増えている。



図表1 物流施設の不動産価格の見通し(半年後)
図表1 物流施設の不動産価格の見通し(半年後)

出所:株式会社一五不動産情報サービス


半年後の物流施設の不動産価格の見通しについて、それぞれの理由を確認する(図表2参照)。

上昇理由では「物流施設への活発な投資が続くため」と「資金調達環境が良好なため」がともに21回答で最多となった。また「投資対象となりうる高機能型物流施設の絶対数が少ないため」が11回答で続いている。そのほか「建設コストが上昇するため」と「物流施設の賃料水準が上昇するため」がそれぞれ2回答となり、前回調査の6回答から大幅に減少している。建設コストは既に高く、賃料水準も上昇余地が乏しいことから、不動産価格の上昇理由に挙がりにくくなっている。

横ばいの理由では「不動産価格が上昇局面から踊り場にさしかかるため」が36回答で最も多く、「賃料水準の見通しに大きな変化がないため」が23回答で続き、上位二つは前回調査と概ね同傾向である。他方、「不動産投資市場の過熱感から、投資を控えるプレイヤーが増えるため」が22回答で、前回調査の14回答から大幅に増え、不動産投資市場の過熱感を示唆する意見が勢いを増している。そのほか、「金利の見通しに大きな変化がないため」が12回答、「日本経済の見通しが安定しているため」が1回答である。

下落理由では「不動産価格の上昇局面が終わり、下落局面に突入するため」が3回答、「開発ラッシュによる需給悪化が懸念されるため」が2回答、「不透明な世界経済の影響で、不動産投資市場から資金が流出するため」が1回答である。不動産価格の見通しで「下落」を選択した回答者数が少ないこともあり、目立った傾向はみられない。



図表2 上昇・横ばい・下落理由
図表2 上昇・横ばい・下落理由

出所:株式会社一五不動産情報サービス
注:複数回答可で設問。また、左軸上の文章は、読みやすくするため、一部省略している。文章(全文)は、PDF末尾の回答用紙を参照。


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2.物流施設の賃料水準の見通し

次に、物流施設の賃料水準について半年後の見通しを設問した(図表3参照)。

本調査(17年1月)では「横ばい」が63.1%で最多で、「下落」が25.0%、「上昇」が11.9%となった。「上昇」の構成比は2015年1月の55.4%をピークに2年にわたり減少している。他方、「下落」の構成比は2014年7月の回答者ゼロから徐々に増加し、前回調査で「上昇」の構成比を上回ったが、本調査で更に増えている。不動産価格同様、賃料水準の見通しでも「横ばい」が6割強の大勢を占めているが、「下落」の構成比が4分の1となり下落傾向が強まっている。



図表3 物流施設の賃料水準の見直し(半年後)
図表3 物流施設の賃料水準の見通し(半年後)

出所:株式会社一五不動産情報サービス


半年後の賃料水準の見通しについて、それぞれの理由を確認する(図表4参照)。

上昇理由では「ネット通販(メーカー・小売によるネット事業を含む)が、需要を牽引するため」が7回答で最多となり、「高機能な大型物流施設が少なく、堅調な需要が期待できるため」と「土地価格や建設費などの開発コストが上昇し、その分の賃料転嫁が進むため」、がそれぞれ5回答、「老朽化した保管型倉庫から、高機能な物流施設に需要がシフトするため」が4回答となった。ネット通販を牽引役として、高機能型物流施設が開発され、堅調な需要を生み出すという意見である。そのほか、「飲食料品・日用雑貨・医薬品など、幅広い業種で需要拡大が期待できるため」が3回答、「日本経済の安定的な成長が期待できるため」が2回答であった。

横ばいの理由は「荷主・物流会社の賃料負担力に変化がないため」が31回答で最多となり、「新規開発による供給増と物流ニーズの増加が均衡するため」が27回答であった。そのほか「物流業界に大きな変化がなく、安定しているため」が11回答、「安定した物価動向が続くため」が6回答、「生鮮品など生活必需品の物流ニーズが底堅いため」が5回答となった。今後見込まれる大量供給も、更なる需要の喚起によって均衡した需給バランスが続くとの意見である。

下落理由としては「物流施設の大量供給で、テナントの獲得競争が激化するため」が20回答で最多となり、前回調査の16回答から更に増えている。大量供給によって需給バランスの緩和が進み、賃料水準が下落するという意見である。また「高機能な物流施設の大量供給で、大型物件の希少性が薄れるため」が8回答、「人件費の上昇で物流会社の利益が圧迫され、賃料の値下げ圧力が強まるため」が6回答、「圏央道以北など賃料が割安な地域への移転が増えるため」4回答、「物流施設に対する需要が減退し、需給バランスが悪化するため」が2回答となった。


図表4 上昇・横ばい・下落理由
図表4 上昇・横ばい下落理由

出所:株式会社一五不動産情報サービス
注:複数回答可で設問。また、左軸上の文章は、読みやすくするため、一部省略している。文章(全文)は、PDF末尾の回答用紙を参照。


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3.業況判断DI

不動産市況のサイクルを把握することを主眼として、日銀短観のように、不動産価格と賃料水準について業況判断DIを算出した(図表5参照)。

本調査(17年1月)における不動産価格の業況判断DIは22.6ポイントで、前回調査の28.7ポイントから6.1ポイント下落したものの、依然としてプラス圏を維持している。他方、賃料水準の業況判断DIはマイナス13.1ポイントで、前回調査のマイナス6.3ポイントから更に下落している。

物流施設の大量供給による需給悪化が懸念されており、賃料水準の業況判断DIはマイナス幅が拡大している。他方、不動産価格の業況判断DIは、前回調査に比べると若干後退しているものの、活発な投資を背景に強気の見通しが根強く残っている。


図表5 本アンケートの業況判断DI
図表5 本アンケートの業況判断DI

出所:株式会社一五不動産情報サービス
作成方法:日銀短観の業況判断D.I.を参考に、下式にて算出。
業況判断D.I.=「上昇」の回答者構成比-「下落」の回答者構成比

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4.物流総合効率化法の改正について

物流総合効率化法は、物流を総合的かつ効率的に実施することにより、物流コストの削減や環境負荷の低減等を図る事業に向けて、その計画の認定、関連支援措置等を定めた法律で、2005年10月に施行された。同法の施行から10年が経過し、物流分野における労働力不足、多頻度小口輸送の進展等を背景として、物流分野における省力化及び環境負荷低減を推進するため、同法の一部が改正され2016年10月に施行された。本アンケートでは改正物流総合効率化法の施行による影響について設問したが、その前にまず法改正のポイントを確認したい。

図表6は物流総合効率化法「総合効率化計画」認定申請の手引きの改正前と改正後の比較であるが、主に赤点線で示した「輸送の合理化の促進」が新たに追加され、モーダルシフトや輸配送の共同化を推進する内容となった。そのほか、制度改正のポイントとして「2以上の者が連携した幅広い物流効率化の取組を支援」することが挙げられている。


図表6 物流総合効率化法「総合効率化計画」認定申請の手引きの新旧比較

図表6 物流総合効率化法「総合効率化計画」認定申請の手引きの新旧比較


図表7は、改正物流総合効率化法の施行による影響についてのアンケート結果である。
「複数荷主が連携した共同物流が活発になる」が30回答と最多であった。改正後の認定事例として、アサヒとキリンの同業他社の連携による共同モーダルシフトが発表され 、今後も同様の取組みが期待されている。
 次いで「市街化調整区域での開発が進む」は23回答となった。今回の法改正において、立地規制に関する配慮に関しては特に変化はないが、市街化調整区域における物流施設整備は、物流総合効率化法の認定において最も関心の高いメリットであり、本アンケートでも注目度が高い。
 そのほか「物流拠点の集約・統合が進み、大規模物件へのシフトが加速する」が21回答となった。本改正に限らず、物流拠点の集約・統合は、物流効率化が最も期待できる施策のひとつであり、大規模物件へのシフトが期待されている。
 他方「鉄道や海上輸送を活用したモーダルシフトが進む」はやや少なく、16回答となった。法改正によってモーダルシフトの運行経費の一部補助などのメリットもあるが、現段階では注目度は高いとはいえない。最も少なかったものは「中小企業による物流総合効率化法の活用事例が増える」の12回答であった。物流業界では中小・零細の企業が非常に多いが、これまでの認定事例をみても大企業による活用が多く、今後も中小企業の活用はあまり期待できないアンケート結果となった。


図表7 改正物流総合効率化法の影響について
図表7 改正物流総合効率化法の影響について

出所:株式会社一五不動産情報サービス
注:複数回答可で設問。

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■アンケート調査の概要、回答用紙につきましては、PDF末尾をご参照ください。

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