第20回物流施設の不動産市況に関するアンケート調査

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【不動産価格の見通し】

半年後の不動産価格の見通しは「横ばい」が67.1%と最多で「上昇」が28.0%、「下落」が4.9%となった。不動産価格は2016年1月より1年半にわたって「横ばい」の見通しが支配的で、「上昇」が3割前後をキープする一方で、「下落」は少数に留まっている。

【賃料水準の見通し】

半年後の賃料の見通しは「横ばい」が74.4%と最多で、「下落」が20.7%、「上昇」が4.9%となった。本調査では「上昇」だけでなく「下落」の回答構成比も前調査から減少し、「横ばい」の回答構成比が4分の3近くを占める結果となった。

1.物流施設の不動産価格の見通し

物流施設の不動産市況について、半年毎のアンケート調査を実施した。

物流施設の不動産価格について半年後の見通しを設問した(図表1参照)。本調査(17年7月)では「横ばい」が67.1%と最多で、「上昇」が28.0%、「下落」が4.9%となった。不動産価格の見通しは2016年1月から1年半にわたって「横ばい」が支配的で、「上昇」が3割前後をキープする一方で、「下落」は少数に留まっている。



図表1 物流施設の不動産価格の見通し(半年後)
図表1 物流施設の不動産価格の見通し(半年後)

出所:株式会社一五不動産情報サービス


半年後の物流施設の不動産価格の見通しについて、それぞれの理由を確認する(図表2参照)。

上昇理由では「物流施設への活発な投資が続くため」が21回答で最多となり、次いで「物流施設へ投資するプレイヤーが更に増えるため」が17回答となった。物流施設へ投資するプレイヤーが更に増え、活発な投資が続くことで、不動産価格の上昇余地があるという意見である。また「良好な資金調達環境が続くため」が13回答で続いているが、前回調査の21回答から大きく減少している。足下では低金利が続いているが、良好な資金調達環境の継続を見込む回答者数は減っている。その他の回答では「建設コストが上昇するため」が3回答、「物流施設の賃料水準が上昇するため」が1回答であった。

横ばいの理由では「賃料水準の見通しに大きな変化がないため」が30回答、「不動産価格が上昇局面から踊り場に移行するため」が29回答となった。また「不動産投資市場の過熱感から、投資を控えるプレイヤーが増えるため」が18回答、「金利の見通しに大きな変化がないため」が12回答となった。賃料の伸びはあまり期待できず、金利の見通しにも大きな変化がないことが主な理由である。また、一部地域では供給増による賃料の軟化が懸念されるが、全体感として横ばいというコメントもみられた。

下落理由では「開発ラッシュによる需給悪化が見込まれるため」が4回答、「物流施設の賃料水準が下落するため」が2回答、「不動産価格の上昇局面が終わり、下落局面に突入するため」が1回答となった。「下落」を選択した回答者は少ないものの、下落を選択した全回答者が「開発ラッシュによる需給悪化が見込まれるため」を選んでおり、供給増による需給悪化への懸念がうかがえる。

大都市圏では物流施設の新規開発が旺盛で、需給逼迫からの賃料上昇は期待しづらく、金利も既に十分に低いことから不動産価格はピークに近いという意見もあるが、不動産価格は高値の警戒感がありながらも、「下落」の見通しがあまり広がっておらず、今後の方向感が分かりにくい情勢となっている。



図表2 上昇・横ばい・下落理由
図表2 上昇・横ばい・下落理由

出所:株式会社一五不動産情報サービス
注:複数回答可で設問。また、左軸上の文章は、読みやすくするため、一部省略している。文章(全文)は、PDF末尾の回答用紙を参照。


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2.物流施設の賃料水準の見通し

次に、物流施設の賃料水準について半年後の見通しを設問した(図表3参照)。

本調査(17年7月)では「横ばい」が74.4%と最多となり、「下落」が20.7%、「上昇」が4.9%となった。「上昇」の回答構成比は2015年1月の55.4%をピークに減少傾向で、直近では賃料水準の見通しに強気な回答者は5%未満の少数派である。また、「下落」の回答構成比は2014年7月の回答者ゼロから増加傾向であったが、本調査で減少に転じた。本調査では「上昇」だけでなく「下落」の回答構成比も減少し、「横ばい」の回答構成比が4分の3近くを占めるアンケート結果となった。



図表3 物流施設の賃料水準の見直し(半年後)
図表3 物流施設の賃料水準の見通し(半年後)

出所:株式会社一五不動産情報サービス


半年後の賃料水準の見通しについて、それぞれの理由を確認する(図表4参照)。

横ばいの理由は「荷主・物流会社の賃料負担力に変化がないため」が39回答と最多で、「新規開発による供給増と物流ニーズの増加が均衡するため」が35回答であった。また「物流業界に大きな変化がなく、安定しているため」が11回答、「生鮮品など生活必需品の物流ニーズが底堅いため」が9回答、「安定した物価動向が続くため」が3回答となった。新規開発が旺盛であるが需要は底堅く、需給環境は安定しているため、賃料水準も大きな変化はないという回答結果である。

下落理由としては「物流施設の大量供給で、テナントの獲得競争が激化するため」が17回答と最多であった。大量供給によって需給緩和が進み、賃料水準が下落するという意見である。また「高機能な物流施設の大量供給で、大型物件の希少性が薄れるため」が9回答、「人件費の上昇で物流会社の利益が圧迫され、賃料の値下げ圧力が強まるため」と「圏央道以北など賃料が割安な地域への移転が増えるため」がそれぞれ4回答、「物流施設に対する需要が減退し、需給バランスが悪化するため」が2回答となった。

上昇理由では「飲食料品・日用雑貨・医薬品など、幅広い業種で需要拡大が期待できるため」、「ネット通販が、需要を牽引するため」、「老朽化した保管型倉庫から、高機能な物流施設に需要がシフトするため」、「雇用面で優位性のある高機能型物流施設に対するニーズが高まるため」、「土地価格や建築費などの開発コストが上昇し、その分の賃料転嫁が進むため」がそれぞれ2回答、「日本経済の安定的な成長が期待できるため」が1回答となった。上昇理由では回答者数が少ないこともあり、目立った傾向は確認できない。

なお、本アンケートで「上昇」または「横ばい」を選択した回答者でも、コメント欄において関西圏の賃料見通しに悲観的な意見がみられたことを付記する。


図表4 上昇・横ばい・下落理由
図表4 上昇・横ばい下落理由

出所:株式会社一五不動産情報サービス
注:複数回答可で設問。また、左軸上の文章は、読みやすくするため、一部省略している。文章(全文)は、PDF末尾の回答用紙を参照。


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3.業況判断DI

不動産市況のサイクルを把握することを主眼として、日銀短観のように、不動産価格と賃料水準について業況判断DIを算出した(図表5参照)。

本調査(17年7月)における不動産価格の業況判断DIは23.1ポイントで、前回調査の22.6ポイントから微増となった。他方、賃料水準の業況判断DIはマイナス15.9ポイントで、前回調査のマイナス13.1ポイントから更に下落した。

賃料水準の業況判断DIでは、大量供給による需給悪化への懸念からマインドがやや後退する一方、不動産価格の業況判断DIは前回調査から僅かに改善している。収益性を示す賃料水準の指標と不動産価格の指標で、見通しの乖離が徐々に拡大している。


図表5 本アンケートの業況判断DI
図表5 本アンケートの業況判断DI

出所:株式会社一五不動産情報サービス
作成方法:日銀短観の業況判断D.I.を参考に、下式にて算出。
業況判断D.I.=「上昇」の回答者構成比-「下落」の回答者構成比

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4.輸送コストの上昇による物流施設への影響について

深刻なドライバー不足を背景に、輸送コストが上昇している。そこで、本アンケートでは輸送コストの上昇が物流施設にどのような影響を与えるかについて設問した(図表6参照)。

「輸送コストを抑えるため、消費地近郊の物流施設が評価される」が49回答と最多となり、全回答者(82名)のうち約6割が選択している。次いで「輸送コストを抑えるため、配送(宅配)業者の拠点との近接性が重要視される」が47回答である。輸送コストの上昇によって最終消費者に近い物流立地が評価されるだけでなく、消費者に届ける配送(宅配)業者の拠点近くの物流立地が好まれるようになっている。

また、物流立地への影響を示唆するものでは「モーダルシフトが改めて注目され、貨物駅や港湾への近接性が重要視される」が26回答である。鉄道や海運による輸送は、環境負荷の低減効果からモーダルシフトとして何度も注目されてきたが、これまでは輸送量の拡大にあまり繋がらなかった。今後、ますます深刻化するトラックドライバー不足を考慮すると、鉄道貨物輸送を導入する動きが拡がることも十分に考えられ、物流立地への影響も無視できない。

そのほか「複数荷主による共同配送が増え、物流拠点が大型化する」が41回答、「トラックドライバーの荷待ち時間を削減するため、トラックバースが充実した物流施設へのニーズが高まる」が18回答となった。昨今、倉庫内で働くヒトのために、アメニティスペースが充実した高機能型物流施設が評価されているが、輸送コストの上昇も大規模な物流施設への需要拡大に繋がるという意見である。

なお、本アンケートの回答者82名のうち「目立った影響はない」は1名のみであった。大半の回答者は輸送コストの上昇が、何らかの形で物流施設に影響すると回答していることも注目される。


図表6 物流総合効率化法「総合効率化計画」認定申請の手引きの新旧比較

図表6 物流総合効率化法「総合効率化計画」認定申請の手引きの新旧比較

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■アンケート調査の概要、回答用紙につきましては、PDF末尾をご参照ください。

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