第16回物流施設の不動産市況に関するアンケート調査

  • 全て
  • 市況
  • アンケート
  • 予測
  • 特集
questionnaire

【不動産価格の見通し】

「上昇」が67.9%、「横ばい」が31.0%、「下落」が1.1%となった。3分の2超の回答者が不動産価格の更なる上昇を予想しているが、市場関係者全体のマインドとしては過熱感が和らいでいる。

【賃料水準の見通し】

「上昇」が51.2%、「横ばい」が46.4%、「下落」が2.4%となり、「上昇」と「横ばい」の見通しが拮抗しつつある。上昇理由では突出した回答はみられず、複合的な要因が積み重なって賃料上昇に繋がっていると判断している。

1.物流施設の不動産価格の見通し

 物流施設の不動産市況について、半年毎のアンケート調査を実施した。なお、アンケートは7月27日から8月3日に至る期間に実施した。8月下旬に発生した世界同時株安によって不動産マーケットのセンチメントが若干変化した可能性はあるが、本レポートでは上記期間に実施したアンケートの回答結果に忠実に従って作成する。

 物流施設の不動産価格について半年後の見通しを設問した(図表1参照)。本調査(15年7月)では「上昇」が67.9%、「横ばい」が31.0%、「下落」が1.1%となった。「上昇」の構成比は、1月の前回調査の75.0%から67.9%へ減少する一方、「横ばい」が25.0%から31.0%へ増加している。また、前回調査では「下落」の回答者はいなかったが、本調査では「下落」の構成比が1.1%となった。3分の2を上回る回答者が不動産価格の更なる上昇を予想しているが、市場関係者全体のマインドとしては過熱感が和らいでいるようだ。



図表1 物流施設の不動産価格の見通し(半年後)
図表1 物流施設の不動産価格の見通し(半年後)

出所:株式会社一五不動産情報サービス
注1:Nは回答者数(サンプル数)を示す。
注2:2008年1月から2012年7月までの設問対象は「土地価格」で、2013年1月より「不動産価格」に変更している。
  詳細は2013年3月4日発表の弊社レポート(http://www.ichigo-re.co.jp/909/)を参照。


 半年後の物流施設の不動産価格の見通しについて、それぞれの理由を確認する(図表2参照)。

 上昇理由では「投資家層の拡がりから、物流施設への不動産投資が更に活発になるため」が38回答で最多で、「資金調達環境が良好なため」が31回答、「建設コストが上昇するため」が24回答である。上昇理由の上位三つは前回調査と同様であるが、最多の選択肢である「投資家層の拡がりから、物流施設への不動産投資が更に活発になるため」が前回調査の54回答から大きく減少しており、不動産投資市場の過熱感が薄れていることがうかがえる。そのほかの選択肢では「物流施設の賃料水準が上昇するため」が21回答、「投資対象となる高機能型物流施設の絶対数が少ないため」が20回答、「日本経済の安定的な成長が期待できるため」が10回答である。

 横ばいの理由では「賃料水準の見通しに大きな変化がないため」が14回答で最も多く、「不動産価格が上昇局面から踊り場にさしかかるため」が10回答、「投資市場の過熱感から、投資を控えるプレイヤーが増えるため」が8回答となった。不動産価格の上昇が長期間に及んでおり、更なる上昇余地が乏しいとの意見が中心である。

 下落理由では「開発ラッシュによる需給悪化が懸念されるため」が1回答であった。東京圏や関西圏で開発ラッシュが見込まれており、不動産価格の下落に繋がることが懸念されている。



図表2 上昇・横ばい・下落理由
図表2 上昇・横ばい・下落理由

出所:株式会社一五不動産情報サービス
注:複数回答可で設問。また、左軸上の文章は、読みやすくするため、一部省略している。文章(全文)は、PDF末尾の回答用紙を参照。


目次へ

2.物流施設の賃料水準の見通し

 次に、物流施設の賃料水準について半年後の見通しを設問した(図表3参照)。

 本調査(15年7月)では「上昇」が51.2%、「横ばい」が46.4%、「下落」が2.4%となった。「上昇」の構成比は、1月の前回調査の55.4%からやや減少する一方、「横ばい」の構成比は前回調査の42.4%から増加し、「下落」も前回調査の2.2%から微増である。半年後の賃料見通しについて、「上昇」と「横ばい」の見通しが拮抗しつつある。



図表3 物流施設の賃料水準の見直し(半年後)
図表3 物流施設の賃料水準の見通し(半年後)

出所:株式会社一五不動産情報サービス
注:Nは回答者数(サンプル数)を示す。


 半年後の賃料水準の見通しについて、それぞれの理由を確認する(図表4参照)。

 上昇理由では「土地価格や建設費などの開発コストが上昇し、その分の賃料転嫁が進むため」が29回答で最多であるが、前回調査の36回答からやや減少している。そのほかでは「ネット通販(メーカー・小売によるネット事業を含む)が、需要を牽引するため」が21回答、「高機能な大型物流施設の絶対数が少なく、需給バランスのひっ迫感が続くため」が20回答、「老朽化した保管型倉庫から、高機能な物流施設に需要がシフトするため」が16回答、「高機能な物流施設の開発によって、潜在的な需要が喚起されるため」が14回答、「飲食料品・日用雑貨・医薬品など、幅広い業種で需要拡大が期待できるため」が14回答である。賃料の上昇理由には突出した回答がみられない。また、当設問は複数選択可であるが、「上昇」を選択した43名のうち、複数の上昇理由を選んだ回答者は約8割の34名で、うち3名は全選択肢にチェックを入れている。多くの回答者は、複合的な要因が積み重なって賃料上昇に繋がっていると判断しているようだ。

 横ばいの理由は「荷主・物流会社の賃料負担力に変化がないため」が31回答で最多となり、「新規開発による供給増と物流ニーズの増加が均衡するため」が24回答、「安定した物価動向が続くため」が5回答、「物流業界に大きな変化がなく、安定しているため」が4回答、「生鮮品など生活必需品の物流ニーズが底堅いため」が1回答であった。前回調査と回答傾向は概ね一致しており、物流セクターの特徴のひとつである安定性に加え、物流施設の需給バランスが均衡していることが横ばいの主な理由となっている。

 下落の理由としては「物流施設の大量供給で、テナントの獲得競争が激化するため」が2回答、「高機能な物流施設の大量供給で、大型物件の希少性が薄れるため」、「物流会社間の競争激化により、賃料の値下げ圧力が強まるため」、「人件費の上昇で物流会社の利益が圧迫され、賃料の値下げ圧力が強まるため」がそれぞれ1回答であった。


図表4 上昇・横ばい下落理由
図表4 上昇・横ばい下落理由

出所:株式会社一五不動産情報サービス
注:複数回答可で設問。また、左軸上の文章は、読みやすくするため、一部省略している。文章(全文)は、PDF末尾の回答用紙を参照。


目次へ

3.業況判断DI

 不動産市況のサイクルのうち、本調査時点がどの段階にあるかを認識することを主眼として、日銀短観のように、不動産価格と賃料水準について業況判断DIを算出した(図表5参照)。

 本調査(15年7月)における不動産価格の業況判断DIは66.8ポイントで、1月の前回調査の75.0ポイントから下落し、1年半前の2014年1月と概ね同水準となっている。また、賃料水準の業況判断DIは48.8ポイントで、前回調査の53.3ポイントからやや下落している。不動産価格は、依然として楽観的な見通しであるが、過熱感が和らいでいる。また、賃料水準の業況判断DIも前回調査から若干下落しており、楽観的な見通しから中庸にシフトしている。


図表5 本アンケートの業況判断DI
図表5 本アンケートの業況判断DI

出所:株式会社一五不動産情報サービス
作成方法:日銀短観の業況判断D.I.を参考に、下式にて算出。
業況判断D.I.=「上昇」の回答者構成比-「下落」の回答者構成比

目次へ

4.雇用情勢の改善による不動産市場への影響

 厚生労働省の発表によれば、2015年7月の有効求人倍率は1.21倍で雇用情勢は顕著に改善している。また、総務省発表の2015年7月の完全失業率も3.3%で完全雇用に近づいている。本アンケートでは雇用情勢の改善による不動産市場への影響を設問した。

 「労働力が確保しやすい地域での物流施設の開発が進む」が55回答で最多で、「最寄駅から徒歩圏など通勤利便性の良い物流施設の人気が高まる」が50回答、「雇用者に配慮した高機能型物流施設の人気が高まる」が32回答で続いている。物件選定において“労働力の確保”な重要なポイントになっており、その結果として人が集まりやすい高機能型物流施設の開発を後押しする要因となっている。上位の三つは不動産市場にポジティブに働く要因である。
 他方、ネガティブな要因としては「人件費の上昇で、不動産コスト(賃料)が圧迫される」が27回答、「労働力が確保しづらい物流施設の人気が落ち、テナント確保や物件売却で苦戦する」が26回答である。

 最後に、本設問で最も少ない回答は「目立った影響はない」の3回答であった。本年1月のアンケート(*1)で、“原油安による不動産市況への影響”を設問したが、その際は「目立った影響がない」が最多で、回答者の6割弱が選択した。原油安による不動産市況への影響は軽微である一方、雇用情勢については何らかの影響があると、大半の市場関係者は判断している。


図表6 原油安による不動産市況への影響
図表6 雇用情勢の改善による不動産市場への影響

出所:株式会社一五不動産情報サービス
注:複数回答可で設問。また、左軸上の文章は、読みやすくするため、一部省略している。文章(全文)は、PDF末尾の回答用紙を参照。

1.2015年2月27日付 第15回物流施設の不動産市況に関するアンケート調査 http://www.ichigo-re.co.jp/1475/

目次へ

■アンケート調査の概要、回答用紙につきましては、PDF末尾をご参照ください。

レポートをPDFでダウンロード